映画『SLAM DUNK』プレイシーンはどうなるか スポーツアニメの現在から考察

 井上雄彦の代表作『SLAM DUNK』のアニメ映画化が過日発表された。

 今のところ、イラストとスタッフクレジットのみのティザー予告だけが公開されているのみで、どんな作品になるのか、今なぜ90年代の名作をアニメ映画化するに至ったのかなど、一切が不明だが、時代の寵児となった名作だけに大きな期待が寄せられている。

 何より、原作者の井上雄彦自身が脚本と監督を務めるとあって、原作の魅力が映像でもこだわりを持って再現されるのではと期待しているファンが多いだろう。

 あのマンガをどのように映像するのか、近年のスポーツを描いたアニメの傾向を振り返りながら考えてみることにしよう。

スポーツアニメの今

 アニメーションは、動かないはずのものに運動を与えて人を感動させる技術だ。スポーツもまた、身体の運動で人の心を動かすものだ。

 「画が動く=運動」は映像の基本なので、当然実写映画とスポーツも相性はいいはずだ。しかし、役者の身体能力がどこまで真に迫れるかという問題はつねにつきまとう。その点、アニメ作品であれば、アニメーターの実力さえ伴えば、理想的な身体と運動を描くことができるし、リアルを超えた迫力も追求できる。

 近年では、リアリズムの追求に、モーションキャプチャを含めた3DCG技術が、スポーツアニメにも導入されるケースが増えてきた。人体のリアルな動きを直接データ化できるモーションキャプチャを取り入れた芝居には、手描きでは作りにくい緻密さがある。

 今年の4月に放送された、古代の拳闘(ボクシング)を題材にしたアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』(フジテレビ系)では、ファイトシーンにモーションキャプチャによる3DCGを採用している。監修には元プロボクサーの亀海喜寛氏が参加、実際のモーションアクターは、JAPAN ACTION ENTERPRISEのスタントマンたちが参加している。

 本編で使用したキャプチャデータには、キャプチャスーツの下にプロテクターを装着し、実際に打撃をヒットさせているそうだ(参照:全11話のTVシリーズを短期間・高品質で制作するためにデジタル技法を駆使! TVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』)。その理由は、リアルを追求することの他、非接触で取られたデータは、打撃位置などを後から修正することに時間もかかるためだそうだ。本当に当ててしまうことでリアルな迫力と効率化を一度に実現したわけだ。

 『セスタス』のように、3DCGを活用する作品もあれば、手描きでリアルな動きを追求するアニメもある。フィギュアスケートを題材にした『ユーリ!!! on ICE』では、実際のスケーティングや3DCGで作ったものを参考映像に、アニメーターが手描きで作り上げている。実物以上に優雅さを感じさせる動きに仕上がっており、非常に見ごたえあるアニメーション映像が堪能できる作品だ。

TVアニメ「ユーリ!!! on ICE」ティザーPV第1弾

 手描きと3DCGは現在のアニメ製作を2分する手法だが、その両方を同一カットで活かした例もある。自転車競技を題材にした『弱虫ペダル』では、ボディをCG、顔を手描きというハイブリッド方式を採用している。顔だけが映るクローズアップなら手描きで済むし、レースの全景を捉えたロングショットは、人は小さく映るので全身3DCGで良い。しかし、自転車レースの醍醐味である迫力とスピード感を表現するためには、ミディアムショットやフルサイズのショットが不可欠だった。そこで、スピード感とリアリティを担保する3DCGの胴体部分と必死の形相を見せる手描きの表情を組み合わせることにしたのだ。(参照:『オトナアニメ』Vol.36「スポーツアニメの現在」、P7、洋泉社Mook)

 この1分22秒あたりからの、小野田坂道の走りは胴体と自転車はCG、顔は手描きの作画だ。

『弱虫ペダル NEW GENERATION』ノンクレジットOPムービー(「ケイデンス」夏代孝明)

 『SLAM DUNK』のティザー予告には、CGディレクターの他、モーションキャプチャ関連のスタッフクレジットも載っているので、どの程度かはわからないがモーションキャプチャによる3DCGシーンがあるものと思われる。リアルでスピーディなバスケットの運動を表現するため、その技術が必要だと判断したのだろう。

『SLAM DUNK』のリアリズムとダイナミズムをどう表現するのか

 『SLAM DUNK』というマンガは、非常に高いレベルのリアリズムを保持した作品だ。

 スポーツライターの関口裕一氏は、『SLAM DUNK』の魅力は、絵の説得力にあると語っている。関口氏曰く「全身の筋肉、関節、靭帯の動き、この瞬間、どこの筋肉が緊張していて、どこの筋肉が弛緩している、この靭帯にどれくらいのテンションがかかっている。そのメカニズムを理解していないと、その絵に説得力やリアリズムは生み出せない」。ようするに、井上雄彦の絵は筋肉の動きレベルでリアルであるというのだ。(参照:『SLAM DUNK』の絵にはすべて”理由”が描かれているーー桜木花道が圧倒的に読者の共感を呼んだワケ

 一方で、本作はダイナミックな構図によるプレイの迫力も醍醐味だった。主人公、桜木の得意プレイであるリバウンドは、実際の競技では地味だが、このマンガでは大変な迫力で描かれる。肉体レベルの緻密なリアリズムとダイナミズムの両方を兼ね備えていたから『SLAM DUNK』は名作なのだ。

 アニメ制作陣は、この2つをしっかりと映像で作り上げねばならない。筋肉レベルのリアリズムを表現するには、ある程度3DCGの力は必要だろう。問題はダイナミズムとの両立だ。

 『セスタス』では、元プロボクサーが監修についているが、本物のプロの動きはアニメにするとやや地味な動きに見えてしまうので、実際のデータ取りの時は、アクターに派手な動きを加味させている。モーションキャプチャでリアルな動きが取れればそれで完成できるというほど簡単ではない。

 リバウンドの動きをモーションキャプチャで取っても、マンガのような迫力あるリバウンドシーンを作ることはできるのかわからない。

 だが、本作には『進撃の巨人』のアクション作画などで有名なアニメーター、江原康之が作画監督として参加している。原作の迫力のリバウンドをモーションキャプチャで再現できなくとも、立体機動のアクションを並々ならぬ迫力で描いた彼ならできるのではないかと思われる。

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