『整形水』から浮かぶ“美の絶望” チョ・ギョンフン監督が描きたかったホラーとは

 韓国といえば、美意識が高く、進学や就職のために親が子どもに整形をプレゼントすることもあると言われている。整形のニーズは高く、整形大国の異名を持つほど。それくらい整形が身近な国による、整形をテーマにしたホラー映画『整形水』が9月23日より公開される。

 整形にマイナスイメージを持っているのか、 整形文化に疑問を投げかけたいのか、 本作に込められたメッセージとは…… 本編を観るとその謎は深まるばかり。

 そこで、リアルサウンド映画部では『整形水』のチョ・ギョンフン監督に直接話を聞くことにした。(中川真知子)

「外見を判断することは、その人の心理」

ーー『整形水』を鑑賞しましたが、とても恐ろしく、センセーショナルな作品だと感じました。日本人の多くが、韓国は整形技術が進んでおり、整形に前向きなイメージを持つ国だと考えていると思いますが、整形をテーマにしたホラーアニメは驚きをもって迎えられると思います。

チョ・ギョンフン(以下、ギョンフン):『整形水』は原作があり、その原作の枠を中心として作りました。驚かれるだろうとは予想していませんでした。『整形水』が恐ろしいと感じられるのは、整形というモチーフが持っている大衆性が身近に感じられる一方で、外見が変わることによって人々が感じる恐怖は思ったよりも大きいからでは。実際、映画を作っていてそう感じました。

映画『整形水』特報映像

ーー外見が変わることによって人々が感じる恐怖、とはどんなことでしょうか?

ギョンフン:外見を判断することは、その人の心理に基づくと思います。自分で自分の美を判断した時に「もう満足できた。幸せだ」と感じられればいいのですが、「ここが欠けている。醜い」と思って整形し続けると、人によっては永遠に満足できずに堂々巡りになってしまうと思います。

整形をした後の顔が気に入らなくて、整形依存症のようになってしまう人や、十分綺麗だったのに満足することができずに整形外科医ではなく自分で顔に注射をしつづけて顔がいびつにふくれてしまった女性の話を聞いたことがあります。

実は私は子どもの頃に太っていた時期があり、それが原因で友人や周りの大人からからかわれた経験があります。その時の気持ちは今でも消えず、恐怖として私の中に長く残っています。側から見たらもう太っていないにもかかわらず、もしかたらまた太るかもしれない、まだ太っているのかもしれないと恐ろしくなることもあります。実際の経験からきたトラウマはなかなか消えません。しかも、痩せれば恐怖が解消されるわけでもない。人間はそういう気持ちになってしまうと、どうすることもできず、抜け出す方法もないのかもしれません。その気持ちは西洋人よりもアジア人の方が大きいように感じています。

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