「野球は人生そのものだ」 選手たちが『八月は夜のバッティングセンターで。』で残す金言

 四回に登場した高橋菜々子(深川麻衣)は、「いい子に見られたい」「嫌われるのが怖い」気持ちが強くて、浮気の痕跡がある恋人や無茶な頼みをしてくる同僚にも強く出られない性格。バッティングセンターでも気が弱くてボールに向かっていけない。

 「ライフ・イズ・ベースボール」。いきなり現れた野球場で、満塁のピンチを任される菜々子。相手の打者は浮気癖のある恋人で、ランナーには無茶なお願いをする同僚や問題があっても悪びれない配達員などが立っている。嫌な場面すぎる……。

 オラつく彼氏に投げられない菜々子を助けるためにやってきたレジェンド選手は、五十嵐亮太! ヤクルト、メッツ、ソフトバンクなどで活躍し、昨年、古巣のヤクルトで引退したばかり、抜群のスピードボールと強気な勝負度胸が持ち味のクローザー(救援投手)だ。強気な攻めで打席の恋人を軽々とアウトにする五十嵐を見て、伊藤は菜々子に声をかける。

「人間は誰もが臆病だ。あんただけじゃない。だから、それを恥じる必要なんてない。それよりも、もっと自分を大事にしなよ」

 闇雲に「強気で攻めろ!」と発破をかけるだけでは、伊藤がただの説教おじさんになってしまう。そうではなく、臆病さを認めた上で、自分を大事にするために強気な姿勢も大事だと説くところがとても沁みた。マウンドを下りた五十嵐も、菜々子に「次は、あなた自身でマウンドを守らなきゃ」と優しく言葉をかける。心のマウンドを守るために、菜々子はしっかりと恋人にブチ切れることができた。うーん、ナイスセーブ。

 ほかにも、山崎武司が不格好でもバットを振ってボールに食らいつくことの大切さを、川崎宗則(彼は現役選手だ)が地道な練習を積み重ねることの重要さを見せれば、山本昌が引き際の見極め方を語り、里崎智也が夫婦に例えられるバッテリーの信頼関係の築き方を教え、古田敦也がチームリーダーのあり方をプレーと言葉で示していたりしていた。どれも選手のプレースタイルや哲学を引き出し、ストーリーに反映させていたのではないだろうか。

 主人公・舞の物語も忘れてはいけない。舞には女子野球に打ち込むあまり、チームメイトにケガをさせてしまい、イップス(突如思い通りのプレーができなくなる症状)になってチームから離れてしまった過去があった。叔父(岡田圭右)のはからいでバッティングセンターのバイトを始めたのだが、そこで出会った人たちやレジェンド選手たちの言葉を受けて、徐々に立ち直っていく。演じた関水渚は、実際に元野球部のマネージャーを務めていた経験があるとのこと。ナイスキャスティングとしか言いようがない。なお、ヤクルトで活躍した“悲運のエース”伊藤智仁と一文字違いの伊藤智弘を演じた仲村トオルも、中学時代は野球部で汗を流していた。ちょっとヤクルトネタが多く感じるのは、脚本の矢島弘一氏(四回、六回、七回を担当)が熱烈なヤクルトファンだからなのかもしれない。

 「野球は人生そのものだ」とは、ミスター・ジャイアンツこと長嶋茂雄の自伝の書名だが、実際に多くの人たちが野球に人生を賭けてきた。野球から得られるもの、学べるものは本当にたくさんある。そんなことを改めて感じさせられた作品だった。

※山崎武司、山崎夢羽の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■放送情報
水ドラ25『八月は夜のバッティングセンターで。』
テレビ東京ほかにて、毎週水曜深夜1:10~1:40放送
出演:関水渚、仲村トオルほか
ゲスト:板谷由夏、木南晴夏、佐藤仁美、武田玲奈、深川麻衣、堀田茜、山崎夢羽、山下リオ
原案:『八月のシンデレラナイン」(アカツキ)
監督:原廣利、志真健太郎、原田健太郎
脚本:山田能龍、矢島弘一
企画・プロデュース:畑中翔太(博報堂ケトル)
プロデューサー:寺原洋平(テレビ東京)、漆間宏一(テレビ東京)、山田久人(BABEL LABEL)、山口修平(アカツキ)、後藤ヨシアキ(アカツキ)
制作:テレビ東京/BABEL LABEL
製作著作 「八月は夜のバッティングセンターで。」製作委員会
(c)「八月は夜のバッティングセンターで。」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/hachinai89/
公式Twitter:@tx_hachinai89
公式Instagram:@tx_hachinai89

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