マルチバース化の可能性で話題 サム・ライミ版『スパイダーマン』を今こそ振り返る

サム・ライミ版『スパイダーマン』を振り返る

 2002年5月3日に全米公開され、映画史上初の初日3日間で興行収入1億ドルを突破した作品となりました。この年は『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』が公開された年ですが、それまでスター・ウォーズ映画はその年の全米興行成績1位をとっていたのに本作は『スパイダーマン』の記録を抜くことは出来ず、スター・ウォーズの連勝記録(年間1位)を止めた作品となります。またこの『スパイダーマン』の成功がきっかけで、5月の1週目あたりはアメコミ映画大作(特にマーベル原作映画)が公開される、という慣例を作りました。

 『スパイダーマン』がなぜ成功したのか? もちろん作品の良さもあるのですが、2001年の9.11テロと関連づけて語られることも多い。なぜなら『スパイダーマン』の最初の予告編にワールドトレードセンターでのアクションシーンがあったのですが、9.11テロの影響でこの予告編が“封印”されました。

 それが『スパイダーマン』への注目をより集めることになりました。そして9.11テロで打ちのめされたアメリカの人々にとって、ヒーロー映画の登場は癒しだったのかもしれません。とにかくアメリカでは大ヒットとなり、日本でも興行収入75億円の大ヒットとなりました。日本での大ヒットの原因は、シネコンの普及が進み映画鑑賞がより身近になったこと、そして誰にでもわかりやすいヒーローものであったことがあげられます。

 少し遡って、本作の監督にサム・ライミが起用されたと聞いた時にちょっと「?」と「いいかも」と2つの感想を持ちました。「?」の方は、基本B級ホラー映画畑のサム・ライミが、このような超大作の監督に起用されたという驚きです。「いいかも」の方は、サム・ライミ監督の、オリジナル・ダーク・ヒーローアクション映画『ダークマン』が素晴らしかったことです。あの『ダークマン』を作ったサム・ライミ監督なら素晴らしいヒーローものを作れるのではないか? 結果は大正解でした。サム・ライミ版の『スパイダーマン』の特長は、ピーター・パーカーの私小説的なアプローチをしたことです。というのも『スパイダーマン』の冒頭は、ピーターの1人称ナレーションで始まります。「これはある女の子をめぐるお話なんだ」とピーターは観客に語り掛けます。この女の子とはMJのことであり、ヒーロー映画ではなく僕のラブストーリーだよ、とピーターはのっけから言っているわけです。スパイダーマン3作には様々なヴィランが登場しますが、ピーターとMJというカップルの物語なのです。

 僕はこの3作の中で(いやすべてのアメコミヒーロー映画の中で)『スパイダーマン2』が最高傑作だと思うのですが、あの作品が盛り上がるのは、すれ違いカップルだったピーターとMJが結ばれるまでを描いた作品なのです。恋が成就するまでがドラマチックですよね。それに対し『スパイダーマン3』の評価が低いのは、結ばれたピーターとMJがどうやってその関係を維持していくのかの話だから、ラブストーリーとしての面白みに欠けるのです。そしてもう一つサム・ライミ版の特長はスパイダーマン以外にヒーローがいない世界ということです。だからピーターは色々なことを背負い込み、悩みます。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 X-MENも苦悩するヒーローたちですが、少なくとも同じ境遇のミュータント仲間はいるので“孤独”ではないですね。MCU版=トム・ホランド出演のスパイダーマンとの違いはまさにここで、MCU版スパイダーマンはすでに他のヒーローたちがいる世界のお話。もちろんここでもMJとの恋愛要素は描かれますが、トムホ版スパイダーマンの悩みは、早く1人前のヒーローになりたいということです。これはMCUの仕掛人であり、マーベル・スタジオの社長であるケヴィン・ファイギが「スパイダーマンの魅力は、他のヒーローと絡んだときに発揮される」と言っていたことですが。したがって『スパイダーマン:ホーム・カミング』ではアイアンマン、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ではニック・フューリー、そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ではドクター・ストレンジと先輩ヒーローたちに振り回される小僧ヒーローとしての面白さです。スパイダーマンというのは基本は青春ドラマですが、強いて言えばサム・ライミ版は恋愛ドラマ、MCU版は成長のドラマなのです。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 冒頭書いたように『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』にサム・ライミ版のスパイダーマンの要素が出てくることは楽しみですが、もう一つ興味深いのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に続くMCU映画が『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』であり、この映画の監督がサム・ライミなんですね! 話の流れから言って『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』にもスパイダーマンが登場してもおかしくないわけで、もしかするとMCUでサム・ライミが演出するスパイダーマンを観ることができるかもしれませんね。

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