蒔田彩珠が表現する“みーちゃん”の葛藤 『おかえりモネ』姉妹の涙が切なすぎる
『おかえりモネ』(NHK総合)のヒロイン・百音(清原果耶)が東京の冬の気配を感じながら、気象予報士としてお天気コーナーの中継デビューを果たしたのは2016年の11月の終わりのこと。仕事が順調な百音のもとへ、父・耕治(内野聖陽)と祖父・龍己(藤竜也)に続き、今度は妹の“みーちゃん”こと未知(蒔田彩珠)が百音の住む汐見荘にやってきた。
耕治と龍己から菅波(坂口健太郎)の存在を聞いた母・亜哉子(鈴木京香)が未知に「どんな人なのか(菅波のことを)見てきてほしい」と頼んだのだ。それだけではなく、高校を卒業して水産試験場に就職して以来、根を詰めて研究している未知に息抜きが必要だという親心もあってのこと。おおらかで明るい耕治と違って、亜哉子は未知の百音に対する微妙な心情を少し前から察知していた。
蒔田彩珠が演じる未知は、素直で明るい表情を見せたかと思えば、ふと暗く思い詰めたような虚ろな視線を向けたりして、複雑な感情を持て余しているようなところがある。未知の心の揺れや負の感情までも映し出す演技があまりにも自然で、百音とのやりとりに緊張が走ることもある。
また、幼なじみの亮(永瀬廉)に対しても、地元に残り、同じように海に携わる仕事を選んだ自分のほうが百音よりも今は亮に近い存在になったという自覚が未知にはあり、それなのにうれしいことがあると亮が真っ先に報告する相手が百音であることに傷ついたりもする。
亮が一番つらいときに自分は同じように地元にいてそばにいるのに、なぜ大事な話をする相手が百音なのか。「お姉ちゃんずるい」という子供っぽい言葉を百音にぶつけるほど、優等生タイプでしっかり者の未知は弱音を吐ける相手がほかにいないのだ。だからこそ、たまには違う環境で息抜きをする必要があると母は感じていたのだろう。姉妹ゆえの葛藤だけでなく、19歳という年頃が持つ独特のジレンマを未知という存在を通じて、蒔田彩珠は繊細な演技で見せてくれている
第15週のタイトルは「百音と未知」。そのタイトルどおり、改めて百音と未知の関係性とそれぞれの心情の違いが浮き彫りとなる展開になった。そもそも、姉妹の心に微妙な距離ができたのは「お姉ちゃん、津波、見てないもんね」という未知の一言がきっかけだった。
震災があった2011年3月11日に島で津波を見た妹と、仙台にいて津波を見ていなかった姉。経験しなかったことで百音は無力感に苦しみ、自分に何ができるのかと模索を続けることになり、未知は経験してしまったことで故郷や家族のために自分が支える側になりたいと堅実な道を選んだ。東京に時々来ればいいという百音にも、未知は「いいよ、私は。私は島がいい。試験場の仕事も楽しいしね」と答えている。島が好きで、島にいたいというのも未知の本心なのだ。
第75話で船に乗るはずの亮と連絡がつかなくなり、亜哉子が電話をしてきて、その原因を聞いた百音と未知。震災で行方不明になっている亮の母・美波(坂井真紀)の死亡届に美波の母、つまり亮の祖母から押印を頼まれた新次(浅野忠信)がつらくて断っていた酒を飲み、また警察沙汰になって亮にも連絡が入ってしまったのだった。