岡田健史の俳優としての新たな扉が開いた瞬間 『青天を衝け』平九郎の壮絶な最期

 大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)第25回「篤太夫、帰国する」では、栄一(吉沢亮)らがパリから日本に帰国する。明治元年。まるで浦島太郎状態の栄一はパリに行っていた約1年半の間での公儀が薩長に負けた経緯や慶喜(草なぎ剛)の動向、小栗忠順(武田真治)の斬首、川路聖謨(平田満)の自害を杉浦愛蔵(志尊淳)、田辺太一(山中聡)、福地源一郎(犬飼貴丈)から聞く。さらに、川村恵十郎(波岡一喜)と須永虎之助(萩原護)から明らかになるのが、平九郎(岡田健史)の死である。

 斬首の直前に舌に乗せたネジを見せつけた小栗や、ピストル自殺を図る川路など、少々ショッキングなシーンが続くが、平九郎の最期もまた壮絶だ。新政府軍に銃で撃たれ、喜作(高良健吾)や惇忠(田辺誠一)ら振武軍の部隊から一人逸れてしまう平九郎。故郷・血洗島に続く中山道を目指し、越生の山道を一人必死に歩くが、追ってきた新政府軍に見つかってしまう。首から下げたお守りを見つめ思うのは「俺はいつかおめぇを嫁に欲しい」と誓った、今も故郷で帰りを待つてい(藤野涼子)の姿だ。

 刀で刺され、銃で撃たれながらも、崖を登っていく平九郎。「ここまでか……」と最期を悟った平九郎は、頂上で最後の力を振り絞り「御旗本、渋沢篤太夫が嫡男、渋沢平九郎!」と新政府軍に向かって絶叫する。何度も銃で撃たれ吐血しながらも、決して倒れることのない平九郎は、自らの腹を刀で刺し切腹。「花と散らん」という最期の言葉を残し、崖の下に落ちていくのだった。

 平九郎を演じる岡田健史については、俳優デビューを果たした『中学聖日記』(TBS系)をはじめ、今年放送となった『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)、『桜の塔』(テレビ朝日系)など、様々な役柄を演じ分ける彼を見てきたつもりだったが、まさかここまで驚かされるとは。岡田健史という俳優の新たな扉が開いた瞬間である。

 息の切れたか細いダミ声にも意表を突かれたが、一番はやはり切腹する最期。今にも命が途絶えそうな虚ろな目から、栄一から授かった誇り高き名前を叫ぶその瞬間には、一気に勇ましい表情へと変わる。公式サイトのインタビューでも触れられているが、岡田が歴史上の人物を演じるのは今回が初めて。最期のシーンを終え「こんなに心にくるものなのかと実感しました」と語っているが、安直ではあるがあの魂の演技を例えるならば平九郎が憑依したというのが最適な表現だろう。岡田健史、22歳。改めて、これからが楽しみな俳優である。

関連記事