『サイダーのように言葉が湧き上がる』の80's感の由来は? 世代にドンピシャの起用の数々
話題を集めている映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、どこか懐かしい風景が残る郊外の街を舞台に、ひょんなことで出会った少年少女が、古いレコードを探す過程で距離を縮めながら、それぞれのコンプレックスと向き合っていく青春ストーリー。全体に流れる80年代テイストと青春の青さが胸を締め付ける。
絵の質感や色合いは、永井博やわたせせいぞうなどを彷彿とさせる。また、作中にあるレコードを探しているフジヤマという老人が出てくるが、実際に80年代には「レコードショップFUJIYAMA」という伝説のインディーズ専門レコードショップが三軒茶屋にあり、現在まで続いている。80年代当時との接点や既視感を随所で感じることができる本作は、実は40〜50代にドンピシャな映画なんじゃないかと思う。
人気ロックバンドnever young beachが手がけた主題歌「サイダーのように言葉が湧き上がる」も、まるで昔のフォークロックを聴くような味わいだ。ボーカルの安部勇磨はザ・ストロークスなどのUSインディを経由して、日本のレジェンド・はっぴいえんどにハマり、今日のような独特のスタイルを確立したという。はっぴいえんどというバンド名に、こと40〜50代の音楽ファンは弱い。実際すでに50代のスチャダラパーに感性を見初められ、スチャとネバヤンという名義でのコラボも実現している。
また、主人公のひとりであるスマイルを演じた杉咲花は、もともとnever young beachのファンだったそうで、自身のラジオ番組のゲストに安部を呼んでいるほど。若い世代の代表であるnever young beachと杉咲花が、親の世代の文化にシンパシーを寄せる。世代を超えた魅力が80年代にはあり、それを1本の作品として体現したのが、『サイダーのように言葉が湧き上がる』だろう。