林遣都はなぜ青春物語が似合うのか 『犬部!』でも見せた“陰り”

 この夏、何とも爽やかで真っ直ぐな青春物語を繰り広げる映画『犬部!』。自他ともに認める“犬バカ”の獣医学生の主人公・花井颯太を、林遣都が熱演している。

『犬部!』予告篇【7月22日(木祝)公開】

 大自然の中、たくさんの犬や猫など動物と戯れる颯太の生命力溢れる目の輝きが本当に素晴らしい。彼は、保護犬や保護猫、さらには実験犬まで含めて「一匹も殺したくない。生きてるものはみんな助ける!」という信条を地でいく“青臭い”獣医学生であり、早くして自身の天命を受け入れライフワークを定められた者だけが持つ射抜くような目の強さ、それでいて澄み切った優しさを放っている。林と言えば目でみせる演技が魅力的だが、中でも本作はそれが際立っている。

 窮地に追いやられている動物の姿を見ると後先考えず条件反射的に体が動いてしまい、使命感はもちろんだがそれよりも純粋な動物への愛情から突き動かされてしまう颯太の様子を林の自然体で人間味溢れるお芝居で見せてくれている。だからこそ、その行為が押しつけがましさも打算もなくどこまでも無邪気で本能的な衝動によるものだからこそ、“大人になってしまった”周囲にはその向こう見ずにも思え、どこまでも利他的な行動があまりに眩しく無防備に感じられるのだろう。

 この理想と現実の間で思いっきりの足掻きを見せる若き学生役を林のようなキャリアがある俳優がどこまでも違和感なく演じられること自体、お見事なのである。自身のことにはどこまでも無頓着で生活の中心に常に犬がいて、はたから見れば“自己犠牲”ばかり払っているかに見える颯太を、全くの痛々しさもなく見せてくれるのは、本当に颯太自身が“世界は変えられる”と信じているからであり、林自身も颯太のそんな想いに全幅の信頼を置き尊敬の念を抱いているからだろう。林演じる颯太のがむしゃらさがあってこそ、“綺麗事だけでは済まない”動物愛護の現場の一面も本作ではきちんと掬い上げられるのだ。

 彼は、本作のように青春物語の中心が本当によく似合う。デビュー作である映画『バッテリー』、『風が強く吹いている』と、中心人物ながらどこか斜に構えていて、“The 好青年”というわけではない歪さにこそ人間味を宿らせ、どこまでも気になる存在感を植え付けた。高慢さの中にある繊細さ、所在なさげな様子を盛り込むのが何とも巧みだ。だから、周囲も視聴者も彼が演じるキャラクターを嫌いにはなれないのだ。そして中心にいながらも陰りのある人物を見せられるのも彼の魅力の1つだろう。

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