『オッドタクシー』はブラックコメディアニメの傑作だ 日本社会に対する強烈な風刺劇
本作はいわゆる既存のアニメとは違う座組で作られており、日本的なアニメに見慣れているとテイストが違いすぎるため、最初は戸惑うのではないかと思う。
制作を担当するP.I.C.S.(株式会社ピクス)はSFテイストの歴史ドラマ『タイムスクープハンター』(NHK)やSEKAI NO OWARI等のMVを制作している映像制作会社。脚本を担当した此元和津也は漫画『セトウツミ』(秋田書店)の作者でテレビドラマ『ブラック校則』(日本テレビ系)の脚本家としても知られている。
低いテンションで喋る覇気のない会話劇のおかしさが此本作品の特徴で『オッドタクシー』でもボソボソ声の会話劇は健在だ。ちなみに収録は、先に声を収録してからアニメに起こすプレスコで録られている。
声優、俳優、お笑い芸人といったジャンルの違う演者が多数集まっている本作だが演技の統一感があるのは、プレスコだからではないかと思う。
「なんで白か黒で答えろという難題を突きつけるんだよ。ミスチルか?」といった気の利いた台詞回しや、格差が広がっている日本社会に対する風刺を込められた物語が強烈で、印象としては『ザ・シンプソンズ』や『サウスパーク』といったアメリカのコメディアニメに近いものがある。国内のアニメ作品では『おそ松さん』が、日本的なものにうまく翻案していたが『オッドタクシー』の場合はキャラクターを動物だからか、風刺劇としての側面がより強まっている。
劇伴はPUNPEE、VaVa、OMSBといったヒップホップアーティストが制作しているのだが、そこはかとなく漂うギャングスター・ラップのテイストも、本作の隠れた魅力だ。
曲としてはアイドルグループ・ミステリーキッスが歌うアイドルソングの方が日本的なものの象徴として扱われているが、アメリカでラッパーが担っている成功者のイメージを日本で体現しているのがアイドルとお笑い芸人だということなのだろう。その意味でも日本的な翻案として見事である。
最後に、主人公の小戸川が不眠症のタクシー運転手という設定は、マーティン・スコセッシ監督の名作映画『タクシードライバー』の主人公・トラヴィスからの引用ではないかと思う。あの映画が持つ不穏な気配を今の日本に置き換えたことで、本作はブラックコメディの傑作アニメに仕上がったのだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『オッドタクシー』
テレビ東京ほかにて、毎週月曜26:00〜放送
Amazon Prime Videoにて独占配信
出演:花江夏樹、飯田里穂、木村良平、山口勝平、三森すずこ、小泉萌香、村上まなつ、昴生(ミキ)、亜生(ミキ)、ユースケ(ダイアン)、津田篤宏(ダイアン)、たかし(トレンディエンジェル)、村上知子(森三中)、高井佳佑(ガーリィレコード)、フェニックス(ガーリィレコード)、浜田賢二、酒井広大、斉藤壮馬、古川慎、堀井茶渡、黒田崇矢、大塚芳忠、汐宮あまね、神楽千歌、METEOR
企画・原作:P.I.C.S.
脚本:此元和津也(P.I.C.S. management)
監督:木下麦(P.I.C.S.)
副監督:新田典生
キャラクターデザイン:木下麦、中山裕美
美術監督:加藤賢司
色彩設計:大関たつ枝
撮影監督:天田雅
編集:後田良樹
音響監督:吉田光平
音響制作:ポニーキャニオンエンタープライズ
音楽:PUNPEE VaVa OMSB
音楽制作協力:SUMMIT, Inc.
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:P.I.C.S. × OLM
(c)P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ
公式サイト:https://oddtaxi.jp/