『バイオハザード ヴィレッジ』の映画的な構築と魅せ方 一方で浮上する引用と盗用の境界線

 5月7日に全世界で発売(日本では時差の関係で5月8日)されたカプコンの新作『バイオハザード ヴィレッジ』が飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている。

『バイオハザード ヴィレッジ』ソフト

 物語の舞台は前作から3年後、アメリカはルイジアナからヨーロッパ、ルーマニアに移り主人公のイーサン(特に彼の手)が再びとんでもなく酷い目に遭う。『バイオハザード7』も狂った一家に襲われる彼だったが、今回は個性豊かな化け物ファミリーに迎えられる。なかでも、最初のボスであるドミトレスクやラスト手前のボス、ハイゼンベルクなど敵役でありながらもその魅力にハマるプレイヤーも多い。

 さて、『ヴィレッジ』の特筆すべき点は何よりも前作以上にパワーアップした映像美とストーリー性、演出にある。もはやゲームの域を超えて、ほぼ映画的な作りになっているのだ。こういった特徴の作品は近年増えていく一方である。

 例えば昨年発売された『Ghost of Tsushima』。鎌倉時代の「元寇」をテーマにしたオープンワールド時代劇アドベンチャーで、対馬にモンゴル軍が侵略してくる。主人公の境井仁は叔父の志村と迎撃するところからオープニングムービーとなるわけだが、そこからの戦闘から操作が始まり、もうその迫力の凄さに語彙力を失い(「すごい」しか言えなくなる)攻撃を始めていく。その攻撃動作も殺陣のこだわりが強く、非常に美しい。その後のゲーム内の景色美も見どころだが、何を隠そうゲームの中に「黒澤モード」という、黒澤明の映画的なモノクロ画面と音質を楽しむことができるモードが存在するのだ。そこからも、かなり映画的にゲームを魅せる気概を感じる一作である。

 映画的に魅せる仕掛けには小島秀夫製作の『DEATH STRANDING』のキャスティング部分にも垣間見える。ノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥをはじめとする豪華俳優陣、そして『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロや『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフンといった名監督をキャストに迎え、パフォーマンス・キャプチャーで撮影されている本作。その制作行程は、もはや映画のそれ。そして、彼らの演技の説得力がストーリーに重みを持たせ、良質なSF映画の世界観とストーリーを堪能できるようになっている。

『DEATH STRANDING』パフォーマンス・キャプチャー編 4K

 『Detroit: Become Human』もまた、シナリオを楽しむゲームだ。2038年のデトロイトを舞台に、3人の主人公であるアンドロイドを操作して物語を進めていく。本作の特徴はなんといっても、“選択制の物語”。ゲーム発売同年に配信されたNetflixオリジナル『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』と同じように、プレイヤーが展開した選択で物語が変わっていく。その全てのシナリオを見るのには膨大な時間が必要だ。なにより、「アンドロイドは人間なのか」「人間の定義とは何か」といった、SF映画で多く題材となっている永遠のテーマに真っ向から挑んだゲーム作品としてかなり評価が高く、カメラワークや楽曲、キャラクター描写など含め映画作品や海外ドラマを観ているような気分になる。

 こういったゲームの世界観やストーリーを楽しむことに今重きが置かれているように思う。そして製作側もまた、それを意識して幅広いレベルのプレイヤーが気軽に楽しめるよう工夫している。それが顕著に現れているのが『The Last of Us Part II』だ。本作もムービーシーンに注力したものではあるが、ストーリーを楽しめるようにかなり自由度のある、幅広い難易度設定が設けられている。一昔前なら「EASY」「NORMAL」「HARD」だったのが、今では「VERY EASY」まで用意され、しかもそれを選んだ上でさらに本作は自分の強さや敵の強さの設定を自由に変更することができる。資源の量も戦闘、謎解きも全てを自分にとって一番いい具合に設定した上でプレイできるのは、エンディング……つまり物語の結末までたどり着くことができないユーザーがいないようにする気概である。

 その潮流の中で、『バイオハザード7』や『ヴィレッジ』はバランス型。これまでの『バイオハザード』シリーズは時代によってはアクションにより注力した作品もあったが、特に『7』と『ヴィレッジ』はしっかりめなアクションに加え、映画的なストーリー要素を持たせたことで従来の作品とは一線を画した。『ヴィレッジ』は『バイオハザード7』という映画の続編として、娘を奪われた父親が彼女を取り戻すために命懸けで数々の試練に挑んでいく。終盤、激化する彼の物語は前作からの伏線やどんでん返しを含め、物語性が格段に上がっており、一連のムービーは“映画”のワンシーンそのもの。

【SDR】『バイオハザード ヴィレッジ』4th Trailer

 それに何より、ムービーシーンだけが映画的なのではない。ひと昔前のゲームでは自分の操作する画面とムービーの間には明らかな“移行”があった。映像が流れている間は、操作はできないので黙ってみて、終わると再び操作画面に切り替わっていた。しかし、『バイオハザード7』そして『ヴィレッジ』は(上にあげたゲームもそうだが)プレイをしながら、突然視野の片隅でムービー的なイベントが発生する。そこに、自分の操作が介入できてプロットに影響を与えることができる。例えば最終形態になったドミトレスクとの戦いは、明るい屋外で行われたからこそ鮮明な視覚と迫力が印象的で、自分の動きひとつでカメラワークが変わる一つのアクションファンタジー映画を観ているような魅せ方だ。その映画を、自分が“操作”しているという感覚。これを味わうこと自体、冷静に考えるとクレイジーだし最高にクールだ。

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