綿野恵太が選ぶ「宮台真司の3冊」 「屋上」なき世代から見た宮台真司

 「屋上」は「社会」でもないし、「反社会」でもない。「脱社会」的な場所である。かといってユートピアではなく、「家族の、学校の、社会の上に存在する様々なシワ(矛盾)」が集中する場所である。「だれでもない存在になれる」という解放感だけではなく、まったりできずに「何者にもなれない」という無力感にも苛まれる。しかしながら、「屋上」的な場所は包摂され、たむろする「女子高生」ともども消滅する方向へと時代は進んでいった。

 とはいえ、いまとなっては「屋上」に惹かれる感覚はわかる気もする。先の文章はこのように続いている――宮台が「屋上」を思い出したのは、「ホームレスとストリートキッズ」の取材を通じて、であった。彼らは「地域・家庭・会社・学校に居場所がなくて、人目につかない街の中で脱力する」。彼らのように「ペタン座り」をしてみると、人々の行き交う路上も「機能的な場所」から「空白の場所」へと変化する。「地上七十センチの眼差し」は、あらゆる場所を「屋上化」するものであった、と。

 ここで青臭い自分の話をすれば、私が惹かれてきたのは「地上七十センチの眼差し」をもつ人々のほうだったと思う。具体的にいうと詩人や活動家たちだったが、わずか「一メートルのちがい」で別の何かを生み出す人々のことを私は「左翼」だと思っていて、そのような人々に「屋上」なき世代だったからこそ惹かれたのだ、といまとなって思う。

■綿野恵太
1988年大阪生まれ。詩と批評『子午線』同人。著書に『「差別はいけないと」とみんないうけれど。』(平凡社)。論考に「谷川雁の原子力」(『現代詩手帖』2014年8-10月)、「原子力の神―吉本隆明の宮沢賢治」(『メタポゾン』11)など。その他、『週刊読書人』や『現代ビジネス』などに寄稿。晶文社より新著『みんな政治でバカになる』を準備中。

■書籍情報
『崩壊を加速させよ  「社会」が沈んで「世界」が浮上する』
著者:宮台真司
発売中
ISBN 978-4-909852-09-0 C0074
仕様:四六判/424ページ
定価:2,970円(本体2,700円+税)
出版社:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com/

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