『グンダーマン』が描く国家と社会 “東ドイツのボブ・ディラン”に思いを馳せて
本作のもう一つの軸は、シンガーソングライターとしてのゲアハルト・グンダーマンの変遷を追体験できることだろう。炭鉱で働きながら、道ならぬ恋に苦悩しながら、美しい東ドイツの風景を眺めながら詩を書きとめ、フォークギターを弾きながら歌を紡ぎ続けるグンダーマン。ギターの弾き語りからはじまり、バンドメンバーとのセッションを行い、少しずつ音楽性の幅を広げ続ける様子を時系列に沿って克明に描いていることも本作の大きな魅力だ。基本的なスタイルは、70年代のフォークロックやカントリー、つまり西側の音楽だ。
時代の移り変わりとともにサイケデリック・ロック、ブルース・ロックの要素が加わり、さらに東欧的な雰囲気が重なることで独創的な音楽世界を開花させていく。映画のストーリーが進むにつれてオーディエンスが増え、終盤には大観衆の前で演奏するシーンも。紆余曲折を重ね、時代の波に足元を取られながらも自らの音楽を真摯に奏で続けーー相反する感情、人間の繊細な心を丸ごと肯定するような歌こそが彼の真骨頂だーーそれが大衆に受け入れられる場面には強く心を揺さぶられてしまった。そう、本作はベールに包まれていた旧ドイツのポピュラー音楽の在り方を記録した、優れた音楽映画でもあると思う。
最後に一つだけ、ちょっとしたネタバレを。本作には、グンダーマンがボブ・ディランの東ドイツ公演の前座をつとめたエピソードもある。ほんの少しだけボブ・ディランと会話することができたグンダーマンが、彼に向かって何を語ったのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■公開情報
『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』
渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
出演:アレクサンダー・シェーア、アンナ・ウンターベルガー
監督:アンドレアス・ドレーゼン
脚本:ライラ・シュティーラー
音楽:イェンス・クヴァント
配給:太秦
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公式サイト:gundermann.jp