『きれいのくに』に滲む作家・加藤拓也の底知れなさ “10代”と“夫婦”、2つの得意手

大人はしてるのに、なぜ子供もはしちゃいけないのか

 その伏線となるのが、第3話で交わされた誠也と凜の会話だ。大切なところなので、そのまま引用する。

誠也「裏整形とかさ、そこまで見た目気にしちゃうみたいなの、俺、わかんない。毎年思う」
凜「えー。そう? わかるけどな、私」
誠也「でもだってさ、なんか、そんな感じの見た目気にしているとか思われたくないみたいなの、あんじゃん?」
凜「えー。私、気にしてるけど、ブスだから」

 坊主頭の誠也はいかにも見た目に無頓着そうだ。しかし、決して気にしていないわけではない。本当は気になるけど、そうやって気にしていることを周囲に気取られるのが恥ずかしくて、気にしていないポーズをとっているだけ。誠也をからめとっているのは、青春期特有の自意識だ。

 だけど、恋をすれば誰だって見た目を良くしたいと思う。わけもわからずヘアワックスに手を伸ばしたり、眉毛を整えようとして失敗したり、都会まで服を買いに行った経験がある人も多いだろう。きっと誠也だって思うはずだ。もっとカッコよくなったら、凜に好きになってもらえるだろうかと。

 そして、凜ははっきりと見た目に対して劣等感を抱いている。この原因は、おそらくれいらなのではないかと思う。れいらは、華やかな美人タイプ。そして、誠也のファーストキスの相手だ。いつも隣にいる彼女の存在が、凜に必要以上のコンプレックスを与えているとしたら。凜が何かしらのはずみで、自分も美容手術をしたいと思っても不思議ではない。

 また、もし中山がれいらに恋心を寄せているとしたら、襲った男と同じ顔という不条理な理由で、彼女から拒否されることとなる。そうなったら、中山だって見た目を変えたいと思うだろう。

 しかし、この国では美容手術は禁止されている。大人は美容手術をしているのに、子供たちには許されない。その理不尽さと、誠也たちは直面していくこととなる。そしてそれは美容手術というトリッキーな題材に限らず、私たちの世界のいたるところにも転がっている。

 たとえば、夜通し遊ぶこと。たとえば、お酒を飲むこと。たとえば、セックスをすること。どれも、大人は当たり前のようにしているけど、子供たちには許されていない。そして、その多くのことに対し、恋を覚えた子供の頃に憤ったはずだ、どうして大人はしているのに、私たちはしちゃいけないんだと。

 そう考えると、『きれいのくに』は荒唐無稽なSFジュブナイルの顔をして、本当は普遍的な青春ストーリーなのかもしれない。

27歳の加藤拓也が描く「10代」と「夫婦」

 現在27歳の加藤拓也が、作家として最初に注目を浴びたのは演劇の世界だった。自らが主宰する劇団た組で、21歳のときに小川洋子の『博士の愛した数式』、22歳のときに押見修造の『惡の華』など有名原作を次々と舞台化。その後、オリジナル作品へとギアチェンジし、精力的に活動した。当時から抜群に優れていたのが、「10代」の描写だ。2018年に上演された『貴方なら生き残れるわ』では底辺バスケ部の何気ない日々と部活への想いをまるでドキュメンタリーのように描き、試合シーンでは本物の観戦のような熱気を生んだ。

 ドラマでも、平成元年に生まれた男女の30年間を描いた『平成物語』(フジテレビ系)や、美大受験を軸に2人の高校生の才能の差を描いた『不甲斐ないこの感性を愛してる』(フジテレビ系)など10~20代を主役とした作品で一気に才能を開花させた。

 加藤の綴る台詞は、極めて口語的だ。「あの」「えっと」のようなフィラーも計算の上盛り込まれているし、主語や述語があえて明確ではなかったり、倒置も多い。そして、役者も決して声を張り上げず、過度な強調も入れず、平板に台詞を扱う。それが、絶妙なリアリティを生んでいる。『きれいのくに』でも、メインの5人全員が非常にナチュラルに呼吸している。加藤拓也の現代口語的な台詞が、役者たちの自然な演技を引き出しているのだろう。

 だが一方で、27歳という年齢を考えれば、世代の近い10代を描くことに長けているのは、自然とも言える。むしろ加藤拓也の真価は、「夫婦」の描き方だ。この『きれいのくに』にもまだここに書いていない仕掛けがひそんでいる。

 実は、このドラマは1話から3話の中盤まではまったく別のストーリーなのだ。序章の主人公は、40代を迎え、恋愛感情や性的欲求でつながることができなくなった夫婦。しかし、妻・恵理(吉田羊)の44歳の誕生日の翌日、目を覚ますと夫・宏之(平原テツ)の目には妻が10歳若返っているように見えた。突然の異変に戸惑う夫と、不満を募らせる妻。そんな夫婦の様子が3話の中盤まで描かれ、それが誠也たちの観ていた「啓発映画」だと種明かしされたことで、本章へと突入した。

 しかし、この序章がただの「啓発映画」という前座で終わるはずがないだろう。加藤は、人前で食事ができなくなった夫と、夫とセックスができなくなった妻を主人公とした『在庫に限りはありますが』、不老不死の妻と、妻のそばでひっそり老いゆく夫を主人公とした『誰にも知られず死ぬ朝』など、これまでオリジナリティあふれる視点から夫婦というものを描いてきた。どちらも『きれいのくに』の恵理と宏之に重なる部分がある。

 つまり、『きれいのくに』は加藤拓也がこれまで繰り返し題材としてきた「10代」と「夫婦」という2つの得意手が合わさったドラマなのだ。おそらく終盤にかけて、何かしらの形で恵理と宏之の物語が、誠也らの青春ストーリーに再び組み込まれていくはず。その全貌が明かされたとき、改めて驚かされることだろう、加藤拓也という作家の底知れなさを。

■横川良明
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画などエンタメを中心に取材・執筆。著書にコラム集『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)、男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』(KADOKAWA)がある。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
よるドラ『きれいのくに』
NHK総合にて、毎週月曜22:45〜放送【全8回】
出演:吉田羊、蓮佛美沙子、平原テツ、小野花梨、橋本淳、加藤ローサ、青木柚、見上愛、岡本夏美、山脇辰哉、秋元龍太朗、稲垣吾郎
作:加藤拓也
音楽:蓮沼執太
制作統括:訓覇圭
プロデューサー:小西千栄子 高橋優香子
演出:西村武五郎、鹿島悠、田中陽児、加藤拓也
写真提供=NHK

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