『おちょやん』千代の人生にあった“母になる”のテーマ 1日限りの極上の舞台を見届けよ

 千代(杉咲花)が道頓堀に帰ってきた。鶴亀新喜劇の劇団員の面々、岡福のシズ(篠原涼子)や宗助(名倉潤)やみつえ(東野絢香)、今の千代を形作ってきたルーツになる人々と再会する。そこで千代は、改めて自らが乗り越えるべきものと正面から向き合う決意をする。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)の第113回では、数年越しに時を前に進める千代と一平の関係が描かれた。

 岡福を出ると、寛治は千代に「僕はいつか、喜劇人として一平さんを超えてみせます」と宣言。頼もしくなったその姿につい、千代は涙がにじむ。同時に千代は、勉強が苦手なために看護師になることを諦めようとする春子(毎田暖乃)の姿を案じていた。春子を心配する気持ちは千代を強く突き動かすことに。熊田経由で受け取った「桂春團治」の台本を千代は初めて開くのだった。

 翌日、千代は岡福に春子を預けてとある場所へ。千代が向かったのは、自らが芝居ができなくなるほどにショックを受けた原因でもある一平と灯子(小西はる)の元だった。

 千代は二人をジッと見つめると「うん…うん…。よし、だんない」と確かめるように何度も小さく頷いた。一平らに会うことでまた芝居ができなくなってしまうことをずっと恐れていた千代だが、どうやらもう大丈夫。はっきりと、透き通るような声で「もっぺん、あこで芝居がしたい」と鶴亀新喜劇の舞台に上がる決意を伝えたのだ。千代は「うちらの喜劇を娘に見せたい」と舞台に上がる理由を語る。テルヲと血の繋がった春子に舞台を見せること、それはテルヲとの約束を果たすことでもあった。

 千代を苦しみから解放し、他所に子を作った一平との出来事を乗り越えさせるきっかけともなったのが、共に暮らす春子の存在だった。挑戦の連続だった道頓堀での千代の芝居人生の集大成となる舞台を春子に見せたいという願いこそが、千代の原動力となる。

 「母になる」ことは一平と共に暮らしていた頃から千代の心にずっとあったことだ。寛治(前田旺志郎)の母親がわりになる時も、一平との間に子ができなかったことも、やっと春子の母になれたことも、千代の人生において「母になる」ということは大きなテーマだった。かねてから形見のビー玉を覗き亡き母を想っていた千代は、自らがその母のような存在となることで多くの人の人生を支える。頼もしい言葉を投げかけるまでになった寛治と対面し、灯子の子に会い、笑顔と少しの涙を見せる千代の姿からは、全てを乗り越えビー玉の先の月に手が届いたかのよう。千代は、「母」になったのだ。

 あとは千代と一平という“喜劇”の真髄を走り続けた舞台人が作る、1日限りの極上の舞台を見届けるだけとなる。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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