監督・プロデューサーの覚悟が詰まった『海辺の彼女たち』 胎児の心音に涙してしまう

 3人の女性のうちの1人、フォン(ホアン・フォン)は妊娠をしていたことが分かり、偽造の在留カードと保険証を携え病院を訪れます。病院にかかるお金もなければ、子育てをする環境もない。中絶も考えなければいけないという状況の中、彼女が耳にするのがお腹の中で育っていた胎児の心音でした。

 本作は冒頭から一貫して、彼女たちを取り巻く環境が“厳しさ”しかないことを表すように、自然音がどれも暴力的でした。電車の音、車の音、仕事場の音、降り積もる雪の音でさえ、敵意がむき出し。そんな音の嵐の中で唯一、“優しさ”をもたらしていたのが胎児の心音です。どんなに小さくても確かに生きている証。フォンが思わず涙を流したように、そこには確かな暖かさが備わっていました。

 本作は暗闇と音が非常に重要な要素を担っている作品です。最大の感染対策を踏まえ、一番の環境である映画館で観ていただきたい一作です。 

■公開情報
『海辺の彼女たち』
5月1日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニューほか
プロデューサー:渡邉一孝、ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン
企画・製作・配給:株式会社E.x.N
2020年/⽇本=ベトナム/88 分/カラー/5.1ch/1:1.85/ベトナム語・⽇本語/ドラマ/DCP
(c)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
公式サイト:http://umikano.com/

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