星田英利が体現する千之助の生き様 『おちょやん』焼け野原のマットンで見せた心意気

 終戦後、義父母と最愛の夫・福助(井上拓哉)の戦死に際し悲しみに暮れ、生気を失ってしまったみつえ(東野絢香)に少しでも笑ってもらいたいという一心で焼け野原で鶴亀家庭劇が公演をする。国民服で、ほぼ衣装もない中、星田が演じるマットンはどこから見ても紛れもないマットンで、でも普段とは確実に何かが違った。普段の綺麗なオチの見せ場でも少し自分は抑えめにし、きちんとその後にくるみつえの息子・一福(歳内王太)のトランペットシーンに照準を合わせるようにしていた。当たり前のことだが、普段であれば舞台上にズブの素人を上げること自体決して許さなかっただろう千之助が、今回だけは“みつえや一福、しいては福助のために”特別公演をした優しさや、喜劇王としての心意気が感じられた。

 そして、星野は千之助の舞台上、舞台下での“オンオフ”の違いも自然と見せてくれる。一福に喜劇出演の話を持ちかけるときは、小さい頃から一福のことを知った“おっちゃん”の顔、それがお芝居になるともちろん全く異なる顔になる。

 沈黙もさまになり、さらには「沈黙」にも様々なバリエーションを見せられ、どうしたってふとした時に“今、千之助はどんな顔してるんだろう?”と気になってしまい知らず知らずのうちに目で追ってしまう。

 そんな千之助が万太郎との共演をどう見せてくれるのか。声を失った万太郎を前に、自身も抗えない老いを滲ませながら、それでもきっとあの2人なら全てを喜劇に変えて、人生ごと笑いにしてくれるのだろう。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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