星田英利が体現する千之助の生き様 『おちょやん』焼け野原のマットンで見せた心意気
『おちょやん』(NHK総合)第19週目「その名も、鶴亀新喜劇や」では、終戦から3年後の様子が描かれ、地方公演中の鶴亀家庭劇がまた道頓堀に呼び戻されるようだ。どうやらそこで声を失った須賀廼家万太郎(板尾創路)と千之助(星田英利)の共演が見られるらしい。
星田は本作が連ドラ出演3作品目。かつては「ほっしゃん。」として、1991年に宮川大輔とコンビ結成、解散以降もピン芸人として2005年のR-1ぐらんぷりで優勝を果たした。以後は軸足を俳優業に移し、こちらでも確かな実力と独特の存在感で代替不能なポジションを築いている。
本作でも、天海一平(成田凌)の師匠であり、ライバル的存在にもなる“喜劇界のアドリブ王”を好演しているが、登場当初から仏頂面で一筋縄にはいかなそうな雰囲気をそこかしこに漂わせていた。台本通りに演じることがない様子に、最初は千代(杉咲花)も面食らっていたが、それも笑いや喜劇に対して絶対的に譲れないものがあり、妥協できないからこそだということが、直接的な言葉や説明がなくとも伝わってくるのがお見事だ。
千之助に関しては、直接彼が本音や自分が考えていることをそのまま言葉にすることの方が少ない、というかほぼ皆無だ。茶化したり、けしかけたりしながら、相手の心に何か変化をもたらす。自分は本心を直接出さないアプローチなのに、相手からは本音や本当に望んでいることを引き出してしまう高度テクをやってのけてしまうのだ。それはきっと星田自身がブログでも想いを綴っている通り、悲しみや不条理などを“乗り越える=置き去りにする”ことなく、全て自分の中で抱えながら内包化してしまう千之助の生き方に他ならないのだろう(参考:クズのテルヲよ、地獄で泣け。|星田英利公式ブログ)。
それゆえ、直接的表現よりも幾重にも重層的な意味合いをなして、胸に迫るものを体現してくれる千之助。母親の無償の愛を描くことにこだわった一平の脚本「マットン婆さん」では、台本にない芝居を展開していくが最後にしっかり泣き笑いのオチをつけて見せてくれた。ラストの「ほんまのお母ちゃんの代わりに無理聞いてあげるんが、マットンの生きる喜びです」には、“自分に与えられなかったものばかりに固執し、その幻想を追い求めるのではなく、その代わりに周囲から与えられたものは本当になかったのか?”という千之助から一平への本質的な問いかけ、そして叱咤激励が含まれていたように思う。