『おちょやん』変わり果てた菊と福松の姿 涙と振り絞るような声に感じたシズの無念さ

 昭和20年3月13日深夜、大阪が空襲の被害を受けた。公演のため京都にいた千代(杉咲花)と一平(成田凌)は道頓堀に戻り、変わり果てた道頓堀の姿を目にする。NHK連続テレビ小説『おちょやん』が第18週初日を迎え、ライバル関係にあった芝居茶屋の女将、菊(いしのようこ)とシズ(篠原涼子)の別れが心苦しい回となった。

 シズの安否を心配する千代は、町外れにある遺体安置所にやってくる。千代はそこでシズと宗助(名倉潤)、みつえ(東野絢香)の姿を見つけるが、茫然とする彼らの目の前には、変わり果てた菊と福松(岡嶋秀昭)の姿があった。菊と福松は、芝居茶屋「福富」の暖簾を取りに疎開先から道頓堀に戻った時、空襲に遭ったのだ。

 生前、菊は岡安に何度も足を運び、シズに疎開するよう説得した。みつえから礼を言われた菊は、シズのことを「相変わらず頭の固い面倒くさい女やよってなあ」と言うが、「ほんでも昔話でケンカできんのはもうシズぐらいなもんだす」「いてへんようになったら張り合いあれへんがな」と茶目っ気のある笑顔を見せる。長年、芝居茶屋の女将として張り合ってきたからこその絆が感じられる、表情と言い回しだった。

 空襲警報が鳴り響く中、「福富」の暖簾を手に、福松を見つめた菊。福松もまた、菊の視線に無言で答えていた。あの時、二人は「福富」を守り抜くと決心したのではないだろうか。みつえの台詞から、福松が菊を守るようにして亡くなっていたことが明かされたが、「福富」の暖簾を菊が守り、そんな菊を福松が守ったのだろうと考える。無情にも「福富楽器店」は跡形もなく焼かれてしまうが、彼女たちが守った暖簾はシズの手に引き継がれる。

 菊から「死んだらしまいや」「まだ諦めてへんねやったら何が何でも生き延び」と言葉をかけられていたシズ。しかしシズの目の前にいる菊がもう声をあげることはない。物言わぬ菊にシズは「偉そうに言うてたくせに何だすね、このざまは!」「何とか言い!」「あほ!」と声を荒げるが、その目からは大粒の涙が溢れていた。

 昔話でケンカができる唯一の相手だからこそ、シズは厳しい口調を選んだのだと思う。だが、止めることができなかった涙と振り絞るような声で発せられた「あほ……」が、シズの無念さを強く感じさせた。

 SNS上では、菊と福松の死に「先週の予告で覚悟はしてたけど……つらい」「初っぱなから泣きっぱなし」との声が上がっており、また千代の台詞にも 「人生は何が起きるか分かれへんな」とあったが、菊たちのように、ほんの少しのタイミングの違いで空襲に遭ってしまった人々を思う声もあがっていた。先週に引き続き、つらい物語が続くが、目を逸らさずに見たいものだ。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/