『おちょやん』テルヲが問いかける千代の幸福 家族のあり方に一石を投じる父親像

 『おちょやん』(NHK総合)第15週のタイトルは「うちは幸せになんで」。テルヲ(トータス松本)の再登場は様々な反応を巻き起こした。第72回では、千代(杉咲花)の幸せを願うテルヲの姿が描かれた。

 宗助(名倉潤)を病院に連れて行ったことから、自身が病気であると知られてしまったテルヲ。シズ(篠原涼子)は、千代を呼び出してテルヲがもう長くないと告げる。しかし、千代は意外なほど冷静だった。「あいつのこと憎いとか嫌いやとか、そんなんとっくに通り過ぎてな、心の中には何や妙に冷たい干からびたもんしか残ってへんのや」。「愛情の反対語は無関心」と言われる。泣かされ続けてきた千代にとって、テルヲは実の親でありながら、心の距離は他人以上に遠かった。

 そうなった原因が自分にあることをテルヲは承知している。その上で道頓堀に戻ってきた理由は「最後にちょっこと親父のまね事してみたなっただけや」。強がりのように聞こえるが、本心であることは一平(成田凌)に対する態度からわかった。「役者なんかと一緒になったらあかんて」と娘に説き、一平と命懸けの飲み比べをするテルヲは、酒好きで女好きの一平が自分と同類に見えるのだろう。

 「もう役者なんか辞めて、はよ子ども産んで、ええお母ちゃんになり。それが一番や」と、どの口が言うのかというセリフも、まともに幸せになってほしいという親心から発されたもの。一平の背中をさする千代を見つめる表情から、自分が妻サエ(三戸なつめ)にさせてしまった苦労を娘に味わわせたくないという思いが垣間見えた。

 しかし、千代はテルヲの言葉を受け入れることができない。奉公先の岡安には借金取りが押しかけ、京都でも金を無心しに現れるなど、テルヲにはさんざん迷惑をかけられた。そもそも役者になったのも、テルヲに奉公に出されたのがきっかけで、今さら辞めろとは言われたくない。「今が幸せかどうかやなんてうちにも分かれへんけどな、あんたといてた時よりはずっとマシや」と千代は言い切る。

 子どもの頃から苦労のし通しだった千代は、幸福な家族や人生を想像できない。それでも、貧乏や不幸がどんなものかは知っている。忌むべき肉親のテルヲは、逆の意味で千代を導く存在と言えるだろう。朝ドラ史上屈指のダメ親父は「親とは、家族とは何か?」というテーマに一石を投じている。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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