東日本大震災から10年、『Fukushima 50』が発するメッセージ
演じた役者たちの、作品にかける思いも純度が高い。制御室でマスクをすると、俳優の顔などはまったく認識できない。それでも若松監督は「そんなこと誰一人気にしていなかった。自分がどう映るかなんて、まったく関係ないという役者たちが集まっていた」と語っていたように、作品の持つメッセージ性をシンプルに伝えようという共通認識で臨んだ現場は、モノ作りの上では、理想的な集団だったのだろう。映画公開前の2019年に新宿ピカデリーで行われたマスコミ向けの完成披露試写会では、イベント等が予定されていたわけでもないなか、上映後何十人者もの出演者が登壇し、熱い思いを語った。
そんなスタッフ、キャストが一丸となり思いを詰め込んだ作品が、人の心を動かさないわけがない。若松監督は、被災地で試写会を行った際、災害の描写などをどう感じるのか、非常にナーバスになっていたというが、上映終了後、会場からは大きな拍手が起こり、観客から「ありがとう」という言葉を聞いて、胸をなでおろしたと話していた。
先日発表された第44回日本アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞を含む12部門で優秀賞を受賞した。冷却不能に陥った福島第一原発は、もし適切な処置が行われなければ、5000万人が避難をしなければいけない大惨事にまで発展していた危険性があったという。そんな最悪の事態を回避すべく、身を挺して原子炉制御のために尽力を尽くした名も無き男たちのことは、この作品によって語り継がれていくことだろう。
■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。
■放送情報
『Fukushima 50』
日本テレビ系にて、3月12日(金)21:00~23:24放送
※本編ノーカット・放送枠30分拡大
出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
原作:門田隆将『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫刊)
(c)2020『Fukushima 50』製作委員会