ロバート・ロドリゲスによる“ヒーロー集結作品” 『ヒーローキッズ』の痛烈なメッセージ

『ヒーローキッズ』が投げかけるメッセージ

 さて、本作では『アベンジャーズ』シリーズのように、「ザ・ヒロイック」といわれる、強大な力を持つヒーローたちの組織が登場し、日々地球の平和を乱す悪と戦っているという、『アベンジャーズ』や『ジャスティス・リーグ』を想起させる世界観が踏襲される。ある日、スーパーマンのようなヒーロー、ミラクル・ガイ(ボイド・ホルブルック)と、自身の発明によるガジェットで戦うアイアンマンのようなヒーロー、テクノ(クリスチャン・スレーター)がいつものように出動すると、その先には、これまでにないほどの数と力を持ったエイリアンの敵が待っていた。

 ミラクル・ガイとテクノはあっさりと敵に破れ、世界の危機を感じた「ザ・ヒロイック」は全ヒーローを招集することに。だが、ザ・フラッシュのように素早いヒーロー、ブラインディング・ファスト(サン・カン)や、ブラック・キャナリーのように超音波を発するヒーロー、ミセス・ヴォイス(ヘイリー・ラインハート)、そしてシャークボーイ(オリジナルと違いJ ・J・ダシュノーが演じる)&マグマガール(テイラー・ドゥーリー)ら「ザ・ヒロイック」たちも次々に破れ、敵に捕らわれていく。本作の主人公である少女ミッシー(ヤヤ・ゴセリン)の父親であるマーカス・モレノ(ペドロ・パスカル)も、ホークアイのような姿で敵に挑むが、まったく歯が立たなかった。

 頼みの綱のヒーローたちが姿を消してしまったいま、世界の存亡はヒーローの子どもたちに委ねられた。ミッシーはじめ、ヌードルズ、ホイールズ、アカペラ、スローモー、リワインド&フォワード、フェイスメーカー、オホ、ワイルドカード、そして最年少にして最強のちびっ子グッピーと、多様な人種によって構成されるヒーローキッズは、それぞれのパワーを活かして政府の施設を抜け出し、エイリアンから世界を救うために行動する。

 親の才能を受け継ぐ子どもたちが、親の危機に際して状況を打開していくという物語は、『スパイキッズ』同様だ。異なるのは、とくにスーパーパワーを持っているわけではないミッシーが、頭脳を活かし勇気を振り絞ることでリーダーとして認められ、ヒーローキッズを統率するようになっていくという点である。そしてヒーローキッズは力を正しく効率的に使うことで、世界の秩序を取り戻していく。

 そんな子どもたちの勇姿に比べ、問題のある存在として表現されるのが、大人たちで構成される政府の人々である。本作が描くのは、そんな世界に生きる子どもたちが、自分の考えや、自分の力を発揮していく姿なのだ。このように、地球にピンチが訪れている状況で、しっかりした少女と大統領が対峙するという構図に、2018年に国連で異例の演説を行った、当時15歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の騒動を重ねているのは明らかだろう。

 地球温暖化による人類の危機を訴えるトゥーンベリ氏について、大統領だったドナルド・トランプ氏は「落ち着けグレタ。落ち着け!」と揶揄し、ウラジミール・プーチン大統領は「いまの世界が複雑だということを誰もグレタに教えてない」と批判した。しかし、大国のトップたちが活動家の少女に文句を言っている間、着実に地球温暖化は進み、気候変動や環境の変化についての報道では、深刻な状況がいまも伝えられ続けている。たしかに、大人の世界は複雑なのかもしれない。しかし、結局このままでは環境が悪化し続けるだけなのではないか。

 日本で2019年に公開されたドキュメンタリー映画『気候戦士 〜クライメート・ウォーリアーズ〜』では、世界各地の子どもたちが、気候変動について警鐘を鳴らす姿が映し出される。もちろん、子どもたちは経済活動によって豊かな生活を送っているし、親に養われている気楽な存在だからこそ環境問題に熱を入れられるというのもたしかだろう。だが、子どもという存在だからこそ、様々な事情に縛られずに正しいことが言えるのではないか。そして、大人たちが“複雑な事情”の結果として積み上げていく“負債”を返済させられることになるのも、いまの子ども世代なのである。

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