『おちょやん』鶴亀家庭劇は一筋縄ではいかない? 明日海りお、星田英利ら要注目なキャラ

 千代(杉咲花)と一平(成田凌)が参加する、鶴亀家庭劇の稽古が始まった。しかし新派、歌舞伎、歌劇団など、出身がバラバラの役者たちはまとまりがなく、初稽古もうまく進まない。NHKの連続テレビ小説『おちょやん』が第10週初日を迎え、出演陣の微細な表情変化が印象的な回となった。

 千之助(星田英利)は一平が提案した脚本を投げ捨て「手違い噺」をやると言い出した。二人の間に緊張した空気が流れたように見えたが、一平はその提案を受け入れ、稽古が始まる。

 この現場に流れる緊張感の大本は、何を隠そう千之助だ。いよいよ稽古が始まるといった時、喜劇の経験はないが意気込む石田(松本妃代)や小山田(曽我廼家寛太郎)、カメラ目線で熱演する“ルリ子劇場”で「しかたなく、わざわざ東京から来てやった」と話す高峰ルリ子(明日海りお)らを見て、千之助は「こら楽しなりそですな」と不敵に笑っていた。

 先週の放送で千之助と万太郎(板尾創路)の因縁が明かされたが、その中で千之助の笑いの基盤がアドリブを駆使したドタバタ劇であることが示唆された。千之助は、鶴亀家庭劇のまとまりのなさそのものを「面白い」と捉えているのではないだろうか。星田英利の演技は、千之助の笑いに対する執着と意地を常に感じさせる。稽古の途中、一平やルリ子が台本通りやることに言及した瞬間、彼の眼光が鋭くなった。千之助は2人の主張にじっと耳を傾けるが納得することはなく、一平らを試すかのように棒読みで「台本通り」台詞を読んでみせた。舞台はナマモノであり、喜劇であれ悲劇であれ特有の緊張感があるものだが、鶴亀家庭劇に参加する面々と千之助のやりとりは視聴者にとてつもない緊張感を要する。千之助が台本通りの演技に納得する時は来るのだろうか。星田の表情変化に今後も注目したい。

 また、千代を演じる杉咲花が見せた一瞬の表情も印象的だった。初稽古でルリ子が初めて台詞を発したとき、千代はじっと見つめていた。稽古後、千代はルリ子が完璧に台詞を覚え、上方言葉を使う姿に「びっくりした」と感想を伝え、舞台上でルリ子の演技力に心惹かれた様子だ。

 ルリ子の魅力的なキャラクター像は明日海りおの演技力はもちろんのこと、杉咲や星田のルリ子に対する演技によって際立って感じられる。彼女が鶴亀家庭劇に来た背景はまだ明かされていないが、山村千鳥(若村麻由美)や若崎洋子(阿部純子)のような深い背景が隠されているのではないかと期待が高まる。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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