“天才的な泥棒”がフランス流で描かれる 『Lupin/ルパン』に込められた原作の“エスプリ”

 このあらすじを読んで「ルパンの物語じゃないのか」と思うのは早計だ。この物語のなかには、モーリス・ルブランが書いたルパンの原作小説の要素がたくさん盛り込まれている。とくに、『怪盗紳士ルパン』のエピソード『女王の首飾り』は、アサンとルパンの境遇がほとんど同じものだということが分かるはずだ。

 動揺したり人間くさい感情を垣間見せるアサンのキャラクターも、魅力的な女性に純真な恋心を抱いてしまう展開も、『ルパン逮捕される』などで示された原作のルパン像に近いものがある。本作では、リュディヴィーヌ・サニエ(『スイミング・プール』)やクロティルド・エスム(『愛のうた、パリ』)演じる女性たちとアサンとのロマンスが描かれる。つまり、作品のイメージは原作からかけ離れているように感じられるが、その内実はルパンそのものなのである。

 このようなアプローチは、いかにもフランスの作品という印象だ。例えば、欧米で日本食文化をビジネスにする場合、アメリカの企業は日本の特殊性を前面に押し出して、浮世絵や日本建築など関連する文化のイメージも含めてショーアップする場合が多いのに対し、フランスでは自分たちの料理のなかに味噌や醤油など日本の調味料や食材を使用することで文化の内実のみを受け入れる特徴があるように感じられる。日本とフランスが合作したドキュメンタリー作品『千年の一滴 だし しょうゆ』(2015年)は、フランス国内で好評を得て何度もTVで放送されている作品である。

 このような傾向は、古くはフランスの印象派の画家たちがこぞって日本の浮世絵の画風を、自分たちの作品のテイストにとり入れた姿勢からも感じ取ることができる。それは、既存の文化を著しく変えることのないフランスの保守性を示しているともいえるが、外国の文化の本質部分を見極めてとらえようとする成熟した部分があるともいえよう。

 同様に、本作もまた現代のフランスを舞台にしながら、ルパンの“エスプリ(魂)”をドラマに込めているように見える。人生や仕事を最大限に楽しもうとする姿勢や、ときに恋に溺れて他のことが目に入らなくなってしまうほどのピュアな性格、そして常識を超えたトリックを思い描くことのワクワクとした面白さ。それこそがアルセーヌ・ルパンではないのか。それは、同じフランスでジャン=ポール・ベルモンドの犯罪映画に受け継がれ、さらに日本では漫画、アニメ作品『ルパン三世』に受け継がれることになり、いまも“ルパン”の魅力は世界中で愛されている。本作『Lupin/ルパン』は、そんな諸作のなかで、ふたたびアルセーヌ・ルパンという源流に遡り、その魅力やエスプリをより正確なかたちでわれわれに伝えようとしているのではないか。作中ではモーリス・ルブランの小説『怪盗紳士ルパン』や『奇岩城』など、ルパンシリーズのエピソードがふんだんに盛り込まれ、書籍の名前も示される。これを機会にアルセーヌ・ルパンの原作小説も、さらに脚光を浴びることになるはずだ。

 そして、本シリーズは早くも2021年夏にシーズン2が配信されることが決定した。おそらくはルパンをねらう捜査が激化し、原作そのままの頭脳バトルが展開することは必至である。オリジナルに敬意を表した気になる展開で結末を迎えたラストシーンの続きは、もうすぐ観ることができる。その間に原作小説を読んでおくのも、このドラマの楽しみ方の一つだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『Lupin/ルパン』
Netflixにて独占配信中

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