『アルプススタンドのはしの方』が共感できる理由とは 小野莉奈×中村守里×城定秀夫が語る
演劇部ふたり、そして、元野球部と、優等生。4人の高校生が、甲子園の応援席でただ喋っているだけの姿を通して、青春の光と影を見事に浮かび上がらせた映画『アルプススタンドのはしの方』。高校演劇初の映画化となった本作は、試合中のはずなのに野球が一切映し出されないなど斬新な構成と、誰もが思い当たる普遍的な青春のかたちの共存で、多くの人のこころを捉え、2020年を代表する佳品となった。
キャストの小野莉奈、中村守里、そして城定秀夫監督に話を聞いた。
この映画の魅力のひとつが4人全員、憎めない何かを持っていること。野球のルールを知らないまま応援席にいる演劇部の部長、安田を演じた小野は次のように話す。
「安田は男っぽい感じが、同性(女性)から見ても、受け入れられやすいのかな、と思える。藤野くん(元野球部)と話すときも、足を広げちゃってるし(笑)。男の子から見たら話しやすい女の子なんじゃないかな。キャピキャピしてないから、男の子とも普通に仲良くなれる。こういうタイプの女子は、どんな男子が好きなのか、個人的には気になりますね」
小野はさらにこう分析する。
「学生時代って、自分の性格やキャラが、友達とか周りに作られていく。環境に合うように、自然になっていくんですよね。中には、自分はこうした方がいいな、と思って、その子なりにキャラを作る子もいる。安田の場合は、演劇部のリーダーとして頑張ってきたことが、あの性格を作ってきたところもあるんじゃないかな」
たとえば、そんなふうに登場人物のバックボーンを探ることができるのも、この作品の大きなお楽しみだ。
帰宅部で学業優秀、常に学年トップだったにもかかわらず、その座を最近奪われてしまった宮下に扮した中村は、こう話す。
「宮下はひとりでいることが多くて、近寄り難い雰囲気を出しているけど。実は、このことを気にしているところがあって、人間だなあと。そこが可愛い。あと、負けたら悔しいって子ですよね」
すかさず小野が「守里ちゃん、負けたら悔しいと思うタイプ?」と聞いた。
「思うタイプ」と中村。「人と較べたりする?」と小野。
「この頃(撮影時)はそうでした。いまは別に較べなくてもいいやって。負けず嫌いではあるけど。変わりましたね。人と較べても、その人にはなれないから、較べなくてもいいやって。何かやるときは、自分の最大限の力を飾らずに出せたらいいのかなって思うようになりました」
中村の振り返りに、小野もこんなエピソードを。
「(藤野役の平井)亜門くんに、この前、別の仕事で会ったんだけど、なんか雰囲気変わったね? って言われて。もっと学生っぽかった、って」
「落ち着いたよね」と中村。
時間はあっという間に過ぎ去っていく。「そのときの自分」は、そのときにしかいなかったりもする。城定監督が言う。