コロナ禍の社会で夢を見られるだろうか? 『らいか ろりん すとん』が映す剥き出しの感情

 泣くことは誰にでもできる。しかし、見た瞬間から暗い目をできる、いや暗い目をしている人間は少ない。映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』を観はじめて、まず目を奪われたのが、インポッシブル・マイカとワキワキワッキーの暗い目だった。そして、それはそのまま映画の終盤への伏線となる。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』は、BiSHなどが所属する芸能事務所・WACKの合宿オーディションの1週間を追った映画だ。2020年の合宿オーディションは新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の感染拡大を受け、例年の壱岐島ではなく関東で3月22日から開催された。

 合宿オーディションは24時間ニコニコ生放送で配信されていたので書いてしまうが、そこで一番仲の良かったインポッシブル・マイカとワキワキワッキーが、いったい最後はどうなったのか? 同日にふたりとも脱落を通告されてしまうのだ。そして敗者復活をかけて、ふたりはオセロで戦うことになる。勝って合宿オーディションに残れるのはひとりである。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』で重要な役回りをしている人物がもうひとりいる。BiSHのセントチヒロ・チッチだ。この映画は彼女の存在で成立していると言ってもいい。

 セントチヒロ・チッチは、合宿オーディション4日目で脱落するトト・パーティン・トトとふたりで組んでレッスンもしていた。トト・パーティン・トトもまた暗い目をしている。そして、感情を剥き出しにしてはセントチヒロ・チッチに冷静に諭される。耳たぶを真っ赤にして涙を流す。合宿オーディション名物のデスソース入りの食事に当たってしまうと、脚をガタガタと痙攣させながら食べ続ける。ときには涙を白米に落としながら食べ続ける。

 トト・パーティン・トトがセントチヒロ・チッチに「怒ってますか?」と聞くシーンは、素直すぎて好感すら抱いた。そんなトト・パーティン・トトの弱音に、「軽くそういうこと言われたら……」と言葉を詰まらせてセントチヒロ・チッチも涙を流す。当初はオーディション参加者たちに対して冷淡なほどだった彼女の姿勢の変化が、映画のひとつの軸になっている。

 セントチヒロ・チッチは、インポッシブル・マイカとワキワキワッキーに手紙も渡し、ふたりは逸材だ、一緒に仕事をしたい、事務所の代表である渡辺淳之介が落としたら抗議するとまでカメラの前で語る。そして、ふたりの脱落を受けて、それは現実のものとなる。

 渡辺淳之介は言う。「たぶんね、あのふたり、このまま落ちないで合格すると、確実に辞めるわ、わけわかんなくなって」。それは予言のように的中する。合宿オーディションに残ってWACKのアイドル育成プロジェクト・WAggに加入し、ユウドット・comと改名したワキワキワッキーは、2020年9月12日に早くも脱退している。

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