『おちょやん』杉咲花が演じる孤独 千代が本当に求めているものとは?

『おちょやん』杉咲花が演じる孤独

 京都に来たその日に、初対面の黒木(ヨシダ朝)から活動写真に出ないかと誘われた千代(杉咲花)。夢みたいな話が目の前に転がりこんできたら誰だって驚いてしまうだろう。千代もすっかり気が動転して女優と女給を取り違えるあわてぶり。『おちょやん』(NHK総合)第22回で千代は女優になることを決心する。

 翌日、千代は鶴亀映画京都撮影所にやってくる。道頓堀で芝居小屋を仕切っていたのも鶴亀株式会社だったので、おそらくその撮影所と思われる。守衛の守屋(渋谷天外)にうろんな目を向けられながらも、そんなことに一向に気付かない千代は、洋食屋で出資者の川島(植栗芳樹)に引き合わされる。

 「この子が主演やったらきっとうまいこといくわ。約束どおり力にならしてもらいましょ」。満面の笑顔で千代の手を握る川島。ようやく運が上向きかけてきたと思ったら、やっぱりというかうまい話には裏があり黒木は詐欺で逮捕。刑事によるとこれまでにも「女優にしてやる言われて、身ぐるみはがされて行方不明になった子もおるんやで」とのことだった。

 すんでのところで助かった千代だが、気持ちの整理がつかない。弟のヨシヲ(荒井陽向)に会うため女優になろうと決めた千代は、カフェーでは快活を装うが、1人になると涙が止まらなかった。千代が泣いてしまったのは、女優になれなかったからというのはもちろんだが、家族と離ればなれのまま生きていく孤独感も大きい。役者の素質を見込まれたと思っていたら川島の「好みの顔」だっただけという事実も千代を落ち込ませるには十分だが、一連の顛末は千代の心に今なお家族の面影が息づいていることを示していた。

 シヅ(篠原涼子)に「これからは自分のために生きてええのや」と言われても、千代は正直どうしたらいいかわからなかっただろう。家出して女優を目指す真理(吉川愛)の言葉で、女優になることと家族と再会することが千代の中でつながった。岡安での最後の日に宗助(名倉潤)の一家と食事をすることを望んだ千代が、本当に求めているのはあたたかい家族なのだ。

 実家近くの竹藪で月明かりにビー玉をかざしていた頃のように、千代が自分の心をのぞくとそこには母サエ(三戸なつめ)の笑顔があって、家族に会うことが今の千代にとって最大の原動力になる。その夢が早々に挫折してしまった千代。どう折り合いをつけていくか気がかりだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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