『クイーンズ・ギャンビット』で一躍話題に アニャ・テイラー=ジョイはなぜ人を惹きつける?
強い意志を持つヒロイン像を打ち出したアニャ・テイラー=ジョイ
アニャ・テイラー=ジョイが演じた天才チェスプレイヤーのベス・ハーモンは、闇があって孤独やトラウマを抱えている。しかし、その恐怖に打ち勝って前に進んでいくというキャラクターなのだが、実は彼女がこれまで演じてきた役柄の多くがベス・ハーモンの要素を持っている。
『ザ・ウィッチ』のトマシン。魔女が“本当にいる”土地で家族から常に抑圧されてきた。母親は何でもかんでも彼女のせいにして責め、時には妬んだ。弟は実の姉に欲望を感じ、幼い双子は悪魔的と言えるほど彼女の手を焼く。父親はそういった状況を見て見ぬふり。ある意味、トマシンにとって地獄的な日々を過ごしていたわけだが、そんな家族が壊滅し、悪魔と契約して魔女になる。常に孤独で疑いをかけられていたが、最後まで純粋であり恐怖に震えていた彼女が、映画のラストで恐怖を克服(というより彼女が恐れていたものに自分がなった)ことで力を得たわけだ。
『スプリット』のケイシー。虐待されて体に無数の傷を持つ彼女は学校でも1人浮いた孤独な生徒だった。しかし、偶然その場に居合わせたことで攫われてしまったにも関わらず、パニックにならずに細かいことに目をくばって突破術を探っていく。なにより、彼女のトラウマ的な過去があったからこそ、多重人格の中で最も凶暴なビーストの心に触れ、彼をなだめることができた。痛みを知っていたからこそ、恐怖に打ち勝ち、強くなることができたのだ。
疑心暗鬼になった家族に魔女だと責められたり、突然危ない男に誘拐・監禁され、命の危険が迫ったりという不条理な状況の中で、いつだって彼女はその“意志の強さを感じる表情”で場を切り抜けてきた。その澄み通った鋭い眼差しには誰も勝てない。そういう強いヒロイン像を彼女自身が常に提案してきたからこそ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚を描いたスピンオフで若きフュリオサ役に抜擢されたことは、決して不思議ではない。
フュリオサもまた、イモータン・ジョー率いる男性が女性を支配する不条理な世界で、女として、1人の人間として恐れ知らずに勝負をかけるキャラクターだ。『クイーンズ・ギャンビット』もまた、チェスという男性社会の中で1人、その女性地位を獲得するように、しかし1人の人間として勝負をしたベス・ハーモン。静の動きが求められた役柄だったが、フュリオサを演じるにあたって想定されるアクションなどを彼女がどのように魅せてくれるのか、今から期待で胸がいっぱいだ。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。好きなボードゲームはガイスター。Instagram/Twitter
■配信情報
『クイーンズ・ギャンビット』
Netflixにて独占配信中
THE QUEEN’S GAMBIT Cr. PHIL BRAY/NETFLIX (c)2020