波瑠×安田顕、初共演作『ホテルローヤル』を語り合う 「まず『心』が裸になる」
映画『ホテルローヤル』が全国公開中だ。本作は、2013年に第149回直木賞を受賞した、累計発行部数100万部を超える桜木紫乃の同名小説を、『百円の恋』『全裸監督』の武正晴監督が映画化したもの。北海道の湿原に立つラブホテル“ホテルローヤル”に訪れる、秘密や孤独を抱えた男女の人間模様を、波瑠演じるホテルローヤルの一人娘・田中雅代を軸に描く。
今回、リアルサウンド映画部では主演を務めた波瑠、波瑠演じる雅代の父親・大吉を演じた安田顕にインタビュー。初共演となる二人のお互いの印象から、ラブホテルという特殊な舞台、本作に込められたメッセージまで語ってもらった。
安田顕「くよくよしたっていいじゃない」
――本作はラブホテルというクローズドな空間が舞台になっています。
安田顕(以下、安田):ある1組のカップルが裸になるというのは、当然その2人しか知らない秘め事ですよね。作品を観ながら感じたのは、裸になるという行為そのものよりも、そのことによってまず「心」が裸になるんだということが、どのエピソードからも見えて。それがすごく感動しました。
波瑠:誰にも共有しない2人だけの世界を映画で描くのは、面白いですよね。私はオーナー/従業員という役ですが、ラブホテルにやってくるお客さんと関わっているようで、関わっていない……そんな距離感も不思議だなと。あとは雅代が、ラブホテルで働いているのに色気がなかったらおもしろいなと思いながら演じていました。
――本作は波瑠さん演じる雅代とその父・大吉が経営するラブホテルでの様々な人間模様が描かれています。特に好きなエピソードやお気に入りのシーンはありますか?
波瑠:私はボイラー室のシーンが好きです。原扶貴子さん演じる従業員の和歌子さんという、雅代が両親よりも仲良く接することができる人とお茶を飲む和やかなシーンです。ボイラー室の日常感はお気に入りです。
安田:僕は、雅代が一生懸命掃除しているホテルの部屋の天井を見たら、その天井に蜘蛛の巣がかかっていた、というシーンが好きですね。なんでかと聞かれると難しいんですが、すごく示唆的だなと。
――波瑠さん演じる雅代はヒロイン的役割ではありますが、同時に周囲の人間模様を観察しているという少し複雑な役柄です。どのように役作りを?
波瑠:確かに映画の主人公にしては静かで、ちょっといろんなことを傍から見ているような役なんです。でも、雅代自身もその事実は自覚していて、そんな自分への不満も抱えている。そのこと自体が雅代の心の奥にある強さを示しているとも思うんです。だから、何も考えずにただ立っているように見えないように、無言の雅代の思いを考える作業は多かったです。うまくいっていると嬉しいんですが……。
安田:僕に言わせれば、波瑠さんが今おっしゃったような心配は一切いらないと思います。出来上がった作品を観たときに、雅代の内面の機微がしっかりと伝わる佇まいでした。素敵な役者さんだなと思いながら、現場でご一緒させていただきました。作品を観て、こうしていろんな場でいろんな方のお話を伺いながら感じるのは、「くよくよしたっていいじゃない」ということ。やっぱり、心が強くて前向きな人もいれば、そうじゃない人もいるけれど、どちらも心の中ではいろいろなことを考えているものです。それが表に見えるか見えないかの違いであって。くよくよしている自分をそんなに否定しないでほしいというのが、僕からの本作を通したメッセージです。