中村蒼が振り返る、『エール』“村野鉄男”としての1年間 「大切なことを気づかせてくれた」

窪田正孝、山崎育三郎との共演はかけがえのない財産

ーー改めて、中村さんにとって鉄男はどんな人間ですか。

中村:最初にお話をいただいた時は、福島三羽ガラスの一人でガキ大将で逞しい人間だっていうのを聞いていて、自分はこういった人生を歩んでいなかったので大丈夫かなと。朝ドラに出られることはうれしいですけど、多くの人に知られる喜びとダメな自分を1年間晒すことになるリスクもあるので(笑)。鉄男は、裕一や久志に比べれば飛び抜けた才能があるわけでもなく。作詞家という夢のために生きるけど、まずは新聞社として、次はおでん屋として働くように、人の懐に入るのが上手で、堅実な男なんだろうなと思います。だからこそ、誰もが故郷や家族を思う気持ちを詞で表現できたんじゃないかと思いますね。

ーー鉄男を演じる上で自分自身とギャップを感じたり、似通っていると思う部分はありますか?

中村:自分と違う部分は鉄男の真っ直ぐで、人を熱く説得したりする部分は自分にはないところですし、羨ましいなと思いながら演じていました。川俣で裕一に「なんで音楽辞めたんだ。諦めるな」って説得するところから始まったんですけど。通ずる部分は、自分のことはあんまり言わない、自分の悩みは自分で解決するところは似てるかなと思いますかね。自分も自己解決することが多いというか、誰かにアドバイスをもらうことはないので。だから、裕一のような天才に共感することはなかなかないですけど、彼の自問自答する姿を僕は共感しながら観ていました。

ーー窪田さんと山崎育三郎さんとの福島三羽ガラスの魅力は?

中村:福島三羽ガラスの関係性を羨ましく思っています。同郷の同級生で、同じ業界に入って、歌を歌う人、曲を作る人、詞を書く人っていう、ちょうど3人が違う職業で。才能があって天才でそれでも自分に自信が持てなくて俯き気味になってしまう裕一を鉄男と久志が支えて。久志には華があるんですよね。鉄男と裕一が作ったものをより多くの人に届けるパワーを持った人だと思います。鉄男からしたら2人は先に売れたし、前を走ってくれていたおかげで腐らずに何年かかってでも、頑張ってこられたんじゃないかと思います。お互いがお互いを支え合って走り続けられたのかなと。役じゃない部分だと窪田さんと育さんとは1年もやったんですけど、正直これといった話は……(笑)。でも、仲は良くなりました。いい大人なのではしゃぎはしませんし、たわいもない話をしたり、コロナ禍や選挙について真面目に語ったり。台本とか健康についてとか、時期も時期だったので。

ーー2人がいたから頑張れたというのも。

中村:あります。2人は偉大な先輩で、窪田さんはこういう人が朝ドラの主演をやる方だと思いましたし、裕一とは違い窪田さんはどっちかというと男臭い人で。以前、窪田さんとは映画のワークショップで一緒だったことがあるんです。僕がまだ10代だったので、窪田さんは20歳ぐらいだったのかな。そのワークショップが、僕には耐え切れないくらいにピリピリしていて……(笑)。僕は窪田さんのことを知っていて、言い争うシーンになったんです。だんだんと本当に怒っているんじゃないかってくらいに、窪田さんがヒートアップしていって。そこから何年も会ってなくて、ちょっとハラハラしてたんですけど、今回現場に入ったらすごく優しくて。ワークショップのことを話したら覚えてるって言って、「あれは腕を思いっきり捻られたかなんかで、すごい腹立っちゃって本当に怒っちゃったんだよ」って……(笑)。本気だったんだって思いましたし、人前で本気で演技にぶつかれるって素晴らしいなと思って。窪田さんは普段はニコニコしていて、スタッフさんともコミュニケーションを取りながら、かといって騒ぎ過ぎないでちょうどいい。育さんは歌も芝居も上手くて、久志をより大きく、愛されるキャラクターにした。そんな2人と1年もやれたっていうのは楽しかったですし、僕としては相当な緊張感を持って演じていましたね。

ーー『エール』に出られたことは、これからの財産になったのではないですか?

中村:本当にかけがえのない財産になりました。1年間同じ役をやれるっていうのは滅多にないことですし、『エール』にはお芝居の実力がとんでもない方々が出られていて、食らいついてやってきたのは大きな自信になると思いますね。

ーー福島弁はもう抜けてしまいましたか?

中村:別の作品の撮影中に「めっちゃ訛ってる」と言われ、それがどうしても直らなくって。こんなにも福島弁が自分に浸透しているのかとびっくりしました。

ーー1年間の撮影を通じて福島への思いも強くなったのでは?

中村:福島の人たちは支え合って生きていて、すごく団結していると思うんです。『エール』は登場人物が支え合って生きていくのがテーマなので、まさに福島の魅力が詰まっている。日本を通じて、世界がそれを求めている世の中なので、ぴったりだったんじゃないかなと思いますね。

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