『エール』浩二がひたむきに守る郷里の家 天国から見守る三郎の暖かな言葉

「戦場に意味はありません。戦場にあるのは、生きるか死ぬかそれだけです」

 『エール』(NHK総合)第87話。慰問先のビルマで、裕一(窪田正孝)は洋画家の中井(小松和重)に慰問の目的を尋ねられる。「命を懸けて戦う人々の力になる」と答える裕一に、中井は静かに、しかしきっぱりと告げる。

「古山さんの音楽は国民を戦いに駆り立てる音楽だ。そのことに良心の呵責を覚えていませんか? 自分の作った音楽がトゲになっていませんか? もし、トゲを抜きたくて、自分の行いが正しいと確かめたくて戦場に行くなら、おやめなさい」

 戦場を間近に見た中井の言葉は、逡巡する裕一の胸に深く突き刺さる。しかし、裕一は忠告を無視し「おかげさまで腹が決まりました」と、藤堂(森山直太朗)のいる前線への慰問を志願する。同胞のためという純粋な思いで戦時歌謡を作曲してきた裕一にとって、中井の言葉は、その思いを真っ向から否定するものとして響いたのだろう。

 その頃、音(二階堂ふみ)と華(根本真陽)が身を寄せる疎開先の福島では、浩二(佐久本宝)が手づくりの和菓子を振る舞っていた。第86話で、理想の結婚相手を「原節子みてぇな」とのたまって、音を絶句させた浩二。まさ(菊池桃子)との会話でも、浩二の結婚が話題に上った。

 まさが孫の華をかわいがる様子を知って「早く結婚して子どもをつくるべきだった」と苦笑いする浩二に「見たかったかな。浩二の子ども」と返すまさ。もはや叶わない願いのような口ぶりが切ない。古山家の家長がすっかり板についた浩二も、裕一との間で家をめぐる兄弟の葛藤があった。「2人には跡継ぎのことで辛い思いさせた」と話すまさは、浩二に「これからは自分が生きたいように生きなさい」と伝える。

 裕一が音楽の道を志す『エール』で見過ごすことができないのは、主人公を支え続けた家族の存在だ。裕一にとって古山家は自身を縛りつける鎖であり、音楽の道を閉ざす壁だった。浩二にとっては、古山家は何をおいても守りたいものであり「それが俺の生きたい道だ」と笑顔を見せる。ひねくれていた浩二は誰よりも家族愛にあふれていた。

 浩二の決意表明に、まさは「じゃあ、早く結婚しないと」と顔をほころばせ、天国の三郎(唐沢寿明)も「おめえは固えとこがあっから、女にモテねえんだ。女は立てろ。頼むぞ!」と発破をかける。まさの想像によると、三郎はあの世で安隆(光石研)と将棋を指しているようで、これからも折に触れて父たちが登場しそうだ。

 にわかに騒がしくなってきた浩二周辺。浩二がどんな結婚相手を連れてくるか楽しみだ。まさと浩二がひたむきに愛する郷里の家は、これからも裕一たちが帰ってくる場所としてあり続けるのだろう。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、松井玲奈、奥野瑛太、古田新太ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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