『エール』悲しみに満ちた景色のなかで光子の眼差しには希望が 一方、裕一は……

 終戦から3カ月、裕一(窪田正孝)は曲を作ることができなくなっていた。NHKの連続テレビ小説『エール』が第19週の初日を迎え、戦争によって大切な人を失い、立ち直ることができない裕一の姿が描かれた。

 曲を書かなくなった裕一のことを、音(二階堂ふみ)や華(根本真陽)、鉄男(中村蒼)は心配していた。そんな中、劇作家・池田二郎(北村有起哉)が裕一のもとを訪れ、「ラジオドラマやりませんか?」と声をかける。裕一が書いた「愛国の花」に心震わされた池田は「いつかこの人と仕事がしたいとずっと思ってました。この先にある物語のためにも先生が必要なんです」と話す。

 裕一が再び曲を作るためには何かきっかけが必要だ。北村演じる池田のまっすぐな口ぶりから、彼が純粋に裕一の曲に心惹かれているのだと分かる。池田が熱弁をふるうのを聞いていた華は、裕一に「いい話。やるの?」と笑いかけていた。池田との仕事が曲作りのきっかけになるのではと考えたのだろう。だが、池田が甚く感動した「愛国の花」は裕一が戦時中に書いた曲だ。裕一は、自分の作った曲が若者を戦場に送り、命を奪う結果になった事実にショックを受けたまま。裕一が華へ返した言葉は「音楽はもういいかな」だった。大切な人を失った裕一の心の傷は、まだ癒えていない。

 豊橋では、岩城(吉原光夫)が息を引き取った。空襲で家も仕事も失い、関内家を支えてきた岩城もいなくなってしまった。その景色は悲しみに満ちている。それでも、光子(薬師丸ひろ子)の眼差しには希望があった。「長い間…、ありがとうございます」という岩城の声を聞いていた光子は、安隆(光石研)と岩城の遺影に、いつもと同じ、穏やかで優しい声でこう言った。

「見とってくださいね。必ず3人で立ち直ります」

 天に向かって手を合わせる光子、五郎(岡部大)、梅(森七菜)にあたたかな光が当たる。再建のため、馬具に替わる革製品を作ることにした関内家は、これから前へ進んでいくことだろう。大切な人を失った華もまた、前を向こうとしている。しかし、裕一が前を向くにはもう少し時間がかかりそうだ。物語終盤、裕一の耳に届いたのは、戦時歌謡を作ってきた裕一を疎む世間の辛辣な声だった。「本当、ようのうのうと生きてられんな」という声が残酷に響く。池田との出会いが、彼の背中を押すことを願う。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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