柄本明、『半沢直樹』の“ラスボス”として君臨! 堺雅人、江口のりこも慕う怪優の底知れなさ

 下北沢でまことしやかに囁かれる言い伝えがある。街で自転車に乗った“あの男”を見ると幸せになれる、と。

 ぶっちぎりの高視聴率をキープしたまま最終回を迎えるTBS日曜劇場『半沢直樹』。第9話のO.A.では銀行と政治家の癒着と不正を暴こうとする半沢(堺雅人)が、中野渡頭取(北大路欣也)、大和田(香川照之)、そして政権与党の幹事長・箕部(柄本明)に真偽を確かめようと会食中の3人のもとに乗り込んだところ、逆に箕部に恫喝され、土下座まで強要されるという展開で幕を閉じた。

 思えば2013年版の『半沢直樹』では、前半の敵は浅野支店長(石丸幹二)で、後半は今や微妙な協力関係を結ぶ大和田。2020年版前半の敵が副頭取の三笠(古田新太)と伊佐山(市川猿之助)だったワケだが、これら全員“ラスボス”に比べたら、ただの小物である。

 その“ラスボス”こと箕部を演じているのが柄本明。怖い。まさに“妖怪”だ。

 2020年版の『半沢直樹』は歌舞伎俳優や演劇界に身を置く俳優の起用が特に目立つが、柄本も舞台の出身。1976年に綾田俊樹、ベンガルらと「劇団東京乾電池」を結成し、長らく高田純次も所属していた。また、現在も「東京乾電池」に籍を置くのが『半沢直樹』で白井国土交通大臣を演じる江口のりこだ。

 銀行に債権放棄をさせられない白井大臣を責める総理に対し「白井君は党の顔となる人材ですから」と、箕部自らが土下座をする場面からは、目的のために手段を選ばない箕部の真の恐ろしさが伝わってきた。自分の失敗をボスに土下座で謝罪されたら江口さん、いや、白井大臣も夢見が悪いだろう。箕部と白井のシーンに毎回流れる異常な緊張感は、もともと劇団の師弟関係でもある2人の関係性あってこそかもしれない。江口がまだ若手劇団員だったころ、柄本のせりふの稽古に遅くまで付き合ったこともあるそうだ。

 ドラマ前半では顔芸を歌舞伎勢に任せていた半沢。が、物語が終盤戦に入ったところで満を持して顔芸合戦に参戦し、第9話のラストではその真骨頂を見せた。その緊迫した場面で顔芸の始祖=香川照之、殿=北大路欣也に負けずとも劣らない存在感を放っていたのが“妖怪”=柄本明である。

 怒っている時は勿論、笑っている時も怖い。表情から何を考えているのか読み取れない。土下座のやり方をわざとゆっくり説明し「さ、やってみなさい」と穏やかに促したかと思えば「こわっぱーっ、はよやれええっ!」と半沢に怒声を浴びせる。ちょっと待って、この妖怪、志村けんさんと芸者さんコントをやってた人と同一人物だよね?

 そう、『半沢直樹』では魑魅魍魎渦巻く政治の世界でドンとして君臨する箕部を演じる柄本だが、過去には故・志村けんさんと組んだ「芸者コント」で子供たちの人気者になったこともある。このコント、ある日突然、面識のない志村さんからオファーがあり、恐る恐る現場に行ってみると簡単なシチュエーションのみ書かれた台本を渡され、ほぼアドリブでやりきったと『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)出演時に柄本自ら語っている。

 映像の世界では優しく気のいいおじいちゃんから殺人犯、大金持ちから家のない人までその役柄は幅広く、つねに強い印象を残す柄本だが、今も舞台に立ち続け、71歳になる今年はコロナ禍の中、オンラインでひとり芝居『煙草の害について』を配信。亡くなった志村けんさんへのオマージュともとれるプレイが話題を呼んだ。また、2017年には自身も長らく演じてきた不条理劇『ゴドーを待ちながら』を演出。『ゴドー~』はふたり芝居だが、この時にエストラゴンとウラジミールという2人の老浮浪者を演じたのが長男・柄本佑と次男・柄本時生だ。

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