『この世界の片隅に』が2年連続地上波放送される意義 2020年に通じる視点と問題意識を探る

 一方で、戦争や暴力は顔の見えない存在として表現される。銃弾や炎、原爆のキノコ雲は、花や海、料理と対比されているように思われる。戦争は人災であるが、個人の力ではどうすることもできず、不可抗力として容赦なく襲い掛かる点でテロや気候変動、震災、未知のウイルスと共通する。従来の定式化した「悪」に収まらないこれらの暴力を、世界自体が持つ残酷さと言い換えることも可能だ。

 すずが生きているのは、残酷な運命に翻弄される世界であり、同時に身近な人の優しさに触れる世界でもある。長く「残酷で優しい世界」を基調としてきたアニメーションの分野から出現した『この世界の片隅に』が、従来の二項対立を超えて現代的なフォルムをまとっているのは偶然ではないだろう。

 終戦後75年で、今ほど死が身近にある時代はない。COVID-19によって、「普通」の日常が簡単に失われることを知った私たちにとって、『この世界の片隅で』は決して過去の出来事ではないはずだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『この世界の片隅に』
NHK総合にて、8月9日(日)15:50〜放送
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、澁谷天外
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)
企画:丸山正雄
監督補・画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
プロデューサー:真木太郎
製作統括:GENCO
アニメーション制作:MAPPA
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト:konosekai.jp

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