劇場と配信プラットフォーム共存の時代へ? Netflixの劇場買収がハリウッドに及ぼす影響を考える

 ところで、このパイの奪い合いについて、ちょうどNetflixがパリスシアターについての発表を行う前の週、興味深い動きがあった。1940年代後半からアメリカでは、メジャースタジオによる独占状態を防ぐため、それらスタジオが映画館を持つことは違法とされてきたが、昨年アメリカ司法省は、その根拠となる、いわゆる「パラマウント同意判決」を撤廃する提案を出した。この動きは、現在連邦裁判所によって審議中であるが、これが受け入れられると、上映作品をめぐってスタジオが劇場に対して大きな力を持つ状況が合法的に作られる可能性がある。

 配信プラットフォームであるNetflixによる劇場の獲得と、今回の司法省の動きがタイミングよく重なったのは非常に興味深い。そんな中で、奇しくもメジャースタジオの一角をなすユニバーサルは、3ヶ月という劇場の独占的な公開期間を打ち壊すPVODを、コロナ禍の特例措置ではなく、今後も見据えた動きとして定着させようとしている。また、ワーナーはHBO Max、ディズニーはDisney+、ユニバーサルもPeacockという自社配信プラットフォームを続々とローンチし、続々とデジタル化へ向けた足場を固めている。

 そういう意味では、Netflixもメジャースタジオも方向は違えど、ともに自社の作品を自由に上映することのできるフラッグシップ的な劇場と、自社作品をオンデマンドで観られる配信プラットフォーム、それぞれを整備する環境が徐々に整いつつある点では共通している。今回の出来事だけを取り上げるとたった2館の劇場の買収ではあるが、数年後に振り返ってみたとき、今後ハリウッドの中でのポジション取りという意味では、重要なターニングポイントだったということも、ないわけではない。

参照

https://www.indiewire.com/2019/12/netflix-paris-theatre-taylor-swift-marriage-story-1202194639/
https://www.hollywoodreporter.com/news/netflix-keep-new-yorks-paris-theater-open-1257882
https://deadline.com/2020/05/netflix-closes-deal-american-cinematheque-egyptian-theatre-1202946525/
https://variety.com/2020/film/news/netflix-hollywood-egyptian-theatre-1234619985/
https://deadline.com/2019/11/justice-department-paramount-consent-decrees-2-1202793402/
https://deadline.com/2020/04/trolls-world-tour-jeff-shell-comcast-earnings-call-1202922028/

■田近昌也
北海道出身。上智大学外国語学部卒。東京でインテリアの営業を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院プロデューサー科を修了。その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

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