劇団ロロ 三浦直之に聞く、演劇の現状と未来像 「変化に対してどう向き合っていくか」
客席をどうデザインするかが演劇の新しい要素に
ーー『窓辺』はビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズとして、YouTube Liveで生配信されている作品ですね。
三浦:面白いものが出来た気はしているんですが、作品だけでは演劇にはならないということも痛感しています。演劇というのは、作品と観客がセットになって初めて生まれるものなので、作品だけのクオリティを上げても、それはどこまでいっても映像作品にしかならないなと……。観る側の能動性というのをどうやって作っていくか、観客がそれぞれ仮の劇場を作るとか、そういうことも試みとしてやっていかないと、これは演劇になっていかないなと思いましたね。
ーー観る側がそれぞれ自宅に仮の劇場を作って、環境を整えることも必要だと。
三浦:ZoomやYouTubeで配信をすると、観客は画面を観るだけで、どうしても眼差しが一方的になってしまうんです。舞台だと俳優からも観客は見えていて、舞台上では“見る”“見られる”という関係が曖昧な状態で、人がいることを感じられる中で作っていくので。稽古に関しても、Zoomでやると監視のようになってしまっています。今、コロナウイルス用のアプリが開発されて、監視社会が進んでいる国などもある中で、演劇は監視だと成立しない。眼差しが往復し合うというのは、稽古の段階でも完成した作品でも重要なことで、眼差しの複数化みたいなことが起こらないと、なかなか難しいんじゃないかなと。
ーー『窓辺』が配信されるまで、自粛期間に突入してからとても短いスパンでしたが、どのように構想を練っていったのでしょう?
三浦:3月の末に今後についてロロのメンバーとリモート会議をしたときに、今は人と会ってないから、誰かとちょっと話すだけでも気が楽になったと言っていたメンバーがいて。僕は集まったり、コミュニケーションの場所を作るというのも演劇の役割だと思っているので、メンバーたちとコミュニケーションをとる場所を作りたいなと。だったら作品を作るのが1番早いなと思って、『窓辺』の企画を始めました。
ーー2月には『四角い2つのさみしい窓』の東京公演を開催されていましたが、その作品との繋がりもあるのでしょうか?
三浦:『四角い2つのさみしい窓』は、舞台上と客席の間に透明な壁が存在しているのが普通になった世界を描いていました。観客と舞台が完全に分けられて、セパレートされていると、演劇は成立しないんじゃないかと思いながら作っていて。なぜなら、演劇は観客に自由が与えられているもので、観客は眠っても席を離れてもいい、舞台に上がることもできてしまう、言ってしまえば観客は舞台に上がって舞台を破壊する権利を持っている。演劇は根本にそういう暴力性があって、それに対してどう向き合っていくかが、演劇を作るということだと僕は思っています。だから、舞台と客席が壁で隔てられると、それは演劇じゃないと思っていたんです。VR演劇とかも、どんなにリアルになったとしてもVRは実体ではないから、演劇といえるのだろうかと考えていました。その後、コロナウイルスでソーシャルディスタンスをとる生活が推進されて、今はコンビニやスーパーに行くと本当に透明な壁で隔てられている状況です。『四角い2つのさみしい窓』のときに考えていた理屈で「演劇できない」とか言ってないで、「どうすれば演劇になるかを考えてみよう」と思ったのも、『窓辺』を始めたきっかけでした。
ーー実際にオンラインで稽古や作品を作る上で、通常の創作との違いを一番感じるのはどんなところでしょう?
三浦:稽古と言うより観察しているような感じが強くなってしまうのと、無駄な時間がすごく少なくなりました。稽古って悩んだり雑談したり無駄な作業があって、余白が多いんです。リモートだと画面にグッと集中しなきゃいけないから、必要最低限のことだけをやっていく流れになって、効率はすごく上がるんですけど、演劇ってそもそも効率が悪いものだとも考えたり。あとは単純にコミュニケーションの作り方が変わりますね。
ーー限られた条件の中で実際に配信して、いかがでしたか?
三浦:観客をどうやって能動的にさせていくかを考えるすごくいい機会になっています。劇場が再開されたとしても客席は全部埋められないとなると、客席をどうデザインするかというのも、演劇を作る中に組み込まれてくると思うので、それを考えるのは面白いです。
ーー第3回の配信も予定している『窓辺』ですが、今後の構想は?
三浦:6月に配信する3話で、一旦一区切りと考えてます。この先もシリーズを完結させるわけではなくて、時期を見ながら続ける可能性もあります。劇場公演の計画を立てるのが難しい中で、演劇ができないときにどういう場所を用意しておけるか、ロロを続けていくために考えていかなければならないと思っています。
ーーこの創作を通して新しく得たものはありますか?
三浦:宮城県から上京してきて、最初に小劇場でポツドールという劇団を観たときに、舞台上にこんなに生々しい体が現れるんだと、そのリアルさに衝撃を受けた体験が僕にはありました。同じように、オンライン上の会話だから生まれるリアリティというのも、きっと存在するはずだと思っていて。コミュニケーションの質が変わらざるを得ないときに生まれる、今までとは違うリアリティってなんだろうということを、役者と一緒に考えるのがすごく楽しかったです。
ーー『窓辺』は今後の演劇を考える上で、実験的な場でもあったんですね。
三浦:劇場に戻ったときのために、ちゃんと武器を増やしていきたいなと思っていますし、僕個人としてはこの窓辺シリーズの完結、最終話は舞台でやりたいなと思いますね。