Netflixで鑑賞可能なアメリカの大人向けアニメのオススメは? 映画評論家・小野寺系が5作を厳選

3.『リック・アンド・モーティ』

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をパロディ化したSFアニメーション。平凡な少年モーティと天才的マッドサイエンティストのおじいちゃんリックが、ともに宇宙に飛び出し他の惑星に行ったり、異次元をさまよったりと、冒険を繰り広げていくシリーズである。

 リックは、いつも口から謎の緑色の液体を垂れ流し、研究や冒険のためなら孫の命を危険にさらすことなど何とも思ってない、倫理観がぶっ飛んだキャラクターだ。モーティはいつでも、そんなヤバいおじいちゃんに振り回され異常な事態に放り込まれていく。

 物語は、“邪悪な『ドラえもん』”だと考えれば分かりやすいかもしれない。『ドラえもん』の栗まんじゅうの回を覚えているだろうか。「バイバイン」という、5分ごとに物体の数を自動的に2倍にしていく未来の道具を使ったことで、食べきれなくなった栗まんじゅうは増殖を続け、それらが天文学的な数になり地球が危機に陥る。追い詰められたドラえもんは、無責任にも倍々に増え続ける栗まんじゅうを宇宙の彼方に飛ばして見て見ぬ振りをすることにする。『リック・アンド・モーティ』は、そんなカオスな状況を毎回のように描いている。

 この作品のすごいのは、SF作品として容赦なく複雑な設定を視聴者にぶつけてくるところ。異なる選択によって分岐してしまった平行世界に住んでいるリックとモーティたちが出会うエピソードなどは序の口で、エピソードが進むごとに内容はそれを応用したような要素を描いていく。

 しまいには、数千、数万の異なる次元からひとつの次元に集結した、おびただしい数のリックとモーティたちが住む惑星が登場することに。そこでは様々な職業についたリックとモーティが都市を形成している。そして、その都市のなかでやさぐれたベテラン警察官が善悪の葛藤に直面するというドラマが描かれるエピソードは、もはや複雑すぎて何を見ているのか分からなくなってくる。このめまいを覚えるような狂気のサイエンス世界を、ぜひ体験してほしい。

4.『ミッドナイト・ゴスペル』

 狂気の世界をさらに先へと進ませた、異常ともいえる作品が『ミッドナイト・ゴスペル』である。子ども向けながら超現実的な内容が大人たちの支持を集めた『アドベンチャー・タイム』のペンデルトン・ウォードが、メーターを振り切った大人向けの作品として異様な世界を追求している。

 主人公は、奇妙でカラフルな惑星に住み、宇宙に自分の放送を流すことが趣味の青年クランシー。彼はネタ集めのために高度に発達した機械を使って、ゲームをプレイするように自分がなりたい姿のアバターに姿を変え、様々な惑星の様々な時代を直感で選び、女性器のようなかたちの転送機から射出されることで、そこに住む人々にインタビューをしに行くのだ。

 描かれるのは、ビートルズのアニメ映画『イエロー・サブマリン』(1968年)のような、鮮やかで無秩序な60年代のサイケデリックな世界。とにかく画面内で、あらゆるものや色彩が絶えず動き続け、LSD常習者の幻覚を見せられているようなアニメーションが展開する。

 だが、中心になっているのは、あくまでインタビューである。宗教やドラッグなど、多彩なゲストにインタビューした内容を、トリップ感ある映像で見せていくというのが、この作品の趣向なのだ。リチャード・リンクレイター監督の『ウェイキング・ライフ』(2001年)にも近い。

 本当に異世界を旅してきたように、ドッと疲れてしまう作品なので、これは1話ずつ間をおいてゆっくり楽しむことをおすすめする。

5.『FはFamilyのF』

 長寿ファミリーアニメ『ザ・シンプソンズ』の脚本家のひとりであるマイケル・プライスが、家族のテーマをより深く掘り下げた作品だ。70年代のアメリカの住宅地に住む平凡な家族を描くこのアニメは、時代なりに家父長制がいまよりも強く、保守性が強調されているのが特徴。

 父親は権威を誇示しようといつも怒鳴っているばかりいる。しかし、ある日会社を解雇されると、彼は途端に立場を失ってしまう。失職した夫は、妻が外で社会的成功をつかもうとすると、それを苦々しい思いで見つめることに。そしてついには、彼女が失敗することを望んでしまう。

 シーズン3では、ベトナム帰りの軍人とベトナム出身の妻の家庭が登場し、ここでも強い家父長制が描かれる。その異常な状況が暴かれる場面は、一瞬心臓が止まるかと思うほど、リアリティがありショッキングだ。

 アメリカにとどまらず、日本を含めこのような男性上位的な価値観によって、これまで多くの歴史がかたちづくられてきた。そしてそれは現代にも色濃く残っている。そんな社会で生きることは、女性にとって不幸であることはもちろん、皮肉にも男性をも苦しめていくことになる。この作品は、人々を不幸にする病巣をとらえ、意味のない男性優位主義を糾弾する内容になっている。

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