山崎賢人が示す“主役の器” 『劇場』までに観ておきたい、“これまで”を振り返れる3本の映画
山崎賢人の進化が著しいというのに、それを目にすることができないのがどうにも悔しい。それほどまでに、主演を務めた映画『劇場』での彼は素晴らしいのだ。同作で山崎が扮するのは若き劇作家にして演出家。高い理想を抱きながらも、ままならない現実に対する苦悩や悲哀を等身大で体現している。彼の現時点でのキャリアの集大成的な姿を見ることができるといえるだろう。ここでは、そんな山崎の“これまで”を振り返ることができる3本の映画を紹介したい。
『一週間フレンズ。』(2017年)
山崎といえば、感情の起伏の浅いクールなキャラクターを演じることも多いが、それとは対照的に、“誰かのため”、ひたむきに突き進む若者の姿も多く演じてきた。本作はそんな彼の一面を垣間見ることができる作品だ。
葉月抹茶による同名マンガを、山崎と川口春奈のダブル主演によって実写化した本作。クラスメイトの藤宮香織(川口春奈)と仲良くなりたいと願う高校生・長谷祐樹(山崎賢人)は、いつも一人きりでいる彼女に近づこうとする。しかし香織は、“1週間で友達との記憶を失くしてしまう”ことを理由に、祐樹の好意を頑なに拒み、ここから祐樹の奮闘するさまが展開していく。
この作品での山崎はチャーミングだ。その一挙一動に、とても魅せられる。本作以前の作品での山崎は、恋愛モノにおいて“追いかけられる側”であることが多くを占めていたが、こちらでは“追いかける側”。川口が扮する無愛想(に見える)な香織にいくど一蹴されようとも、鋼のハートでアプローチを繰り返すのだ。
とはいえ本作は、一種の恋物語ではあるものの、タイトル通り“友情モノ”である。祐樹の好意/行為は、見方によってはストーカー的なものとも映るかもしれないが、彼がうちに秘めているのは、“あなたのことが知りたい”というただその一心。すべては純真無垢さから発されるものなのである。これを軽やかに実現させ、説得力を持たせているのは、演じる山崎が見せる無邪気で愛らしい笑顔だ。やがて祐樹に対して心を開くようになる香織との交流は、“胸キュン”はもちろんのこと、号泣必至なので注意(覚悟)してほしい。
『羊と鋼の森』(2018年)
先の『一週間フレンズ。』をはじめ、山崎といえば“マンガ実写化の王子”としてこれまで君臨してきた。『斉木楠雄のΨ難』(2017年)が実写化された際には、「山崎賢人、実写やりすぎじゃね?」という自身による少々自虐めいた特報映像も流れたほどである。『羊と鋼の森』も原作モノではあるが、「本屋大賞」にも選ばれた同名小説が原作の、文芸映画だ。
本作で山崎が演じるのは、高校時代に体育館で調律師がグランドピアノを調律するのを目の当たりにし、以来この職業に魅せられている青年・外村直樹である。彼は故郷を離れ、調律師養成のための専門学校で調律の技術を学び、憧れの調律師(三浦友和)のもとで、日々奮闘。自身の“才能の有無”に向き合い、ピアノ奏者たちと交流していく中で、彼は成長していく。
マンガ実写化作品での多くで、山崎は同世代の若手俳優陣と共演し、主役を張ることで彼らを率いてきた。だが本作で山崎を囲むのは、三浦友和をはじめ、吉行和子、光石研、堀内敬子といったベテランの面々。鈴木亮平が先輩役で出演しているが、彼も彼でかなりのキャリアがある。物語世界での配役が、演じ手たちの実際の関係性と同じ形となっているのだ。そんな彼らの中心に立つというのは、重責とも呼べるものだろう。本作に触れることで、山崎が“主役の器”であることを改めて実感させられる。
ピアニストという表現者に対して、調律師という、いわば裏方、影の存在にフォーカスした本作は、地味といえば地味である。だが、原作小説から聞こえてきた音色や、浮かんできた情景が瑞々しく映し出され、それらの中で山崎は、読者各々が思い浮かべていた“外村像”に息吹を与えた。新たな文芸作品『劇場』での彼へとつながるものが、ここにあるように思える。