『エール』唐沢寿明、朝ドラ恒例“ダメおやじ”にハマる パワフルさと情けなさの絶妙なバランス

 窪田正孝が主演を務めるNHK連続テレビ小説『エール』がスタートした。第1週で描かれたのは、気が弱くて運動が苦手な主人公の古山裕一(石田星空)が音楽の才能に目覚める小学校時代だった。裕一の父で、老舗呉服店の能天気な4代目店主・古山三郎を演じるのが唐沢寿明で、愛すべきダメおやじとして物語を牽引する。

 朝ドラのダメおやじといえば、前作の『スカーレット』で主人公・喜美子(戸田恵梨香)の父、常治(北村一輝)も強烈な印象を残した。「なんとかなる!」「俺に任せとけ!」と、計画性がないのに妙に楽観的で、商売に向かないところも三郎に通ずるものがある。

 常治と三郎には、兄2人を亡くしているという共通点もある。三郎の場合は、長男と次男が相次いで亡くなったため、後を継ぐ気がないまま商売を引き受けることになった根っからのお坊ちゃん体質である。

 貧乏だった『スカーレット』の川原家と違い、本作の古山家には商才があった先代の頃から店を守ってくれる番頭の大河原(菅原大吉)や店員たちがいて、店を回してくれている。ダメおやじの特徴で「うれしいことがあると、さらに気が大きくなる」というのがあるが、三郎は長男の裕一が誕生したときに当時は珍しかったレジスターを購入し、次男の浩二が生まれたときには奮発して蓄音機を買っている。

 妻のまさ(菊池桃子)にしてみれば待望の男子が生まれて、いくら興奮したとはいえ生まれた子供の顔も見ないまま家を飛び出し、夫が大きな買い物をしてくるなんて呆れるしかない。愛情が勢いあまって行動が空回りするのも、ダメおやじあるあるだ。

 ただ、このおめでたい行動が裕一の才能を開花させるきっかけを作った。『スカーレット』の父・常治が「女に学問はいらない」と言い放ち、それをのちに後悔しながらも喜美子の夢を否定したのに対して、本作の三郎は裕一の夢を全力で応援したいと思っている。三郎自身、自分には見つけられなかった「何か夢中になれるもの」を、息子の裕一には、探せと伝えている。お調子者で、責任感がないように見えるが、深いところで息子の行く末を案じ、父親として溢れる愛情を垣間見せる唐沢寿明の芝居が絶妙なのだ。

 裕一が運動会の徒競走で少しでも速く走れるようにと心を砕き、担任の藤堂先生から「裕一くんには、たぐいまれな音楽の才能があります!」と告げられると、しみじみと喜ぶ。また、繊細で自分の意思をはっきり伝えられない不器用な裕一に対して、自分のダメなところを隠そうともしない少し浮かれた父親がそばにいることで逆に救われることもある。唐沢寿明が持つパワフルさ、明るさ、そして時折見せる弱さが物語に大きな影響力を与えるのだ。

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