『ハケンの品格』大前春子は今の日本をどう生き抜く? リーマンショック、東日本大震災後の生き方

大前春子は今の日本をどう乗り越える?

 最後の理由が、「主人公と社会のかかわり」だ。魅力的なキャラクターが10数年後の現在、どのような行動をとるのか、社会の変化にどのように対応するのかが視聴者の興味を惹き、ドラマの骨格になる。恋愛ドラマよりも社会性が強いテーマを持つドラマのほうが、10数年後の続編は作りやすいだろう。

 『ハケンの品格』が放送された2007年は、リーマンショック直前で日本経済は好況に湧いていたが、2004年には労働者派遣法が改正されるなど規制緩和が続いており、非正規雇用の派遣社員は増加の一途をたどっていた(第1話の冒頭には「2005 派遣市場規模、4兆円突破」という字幕が出る)。格差社会が出来上がりつつある中、尊大な男性の正社員を女性のスーパー派遣社員の大前春子がやりこめるという展開に視聴者は喝采を送った。一方で、女性の貧困問題などはクローズアップされておらず、年収150万円足らずの派遣社員・森美雪(加藤あい)の生活描写にはリアリティがなかった。

 その後、リーマンショック、東日本大震災を経て、日本社会は大きく変化している。「派遣切り」が話題になったのは『ハケンの品格』放送後の2008~09年だったが、格差社会は広がり、貧困問題、ジェンダーギャップの問題などもクローズアップされるようになった。若い非正規労働者はさらに厳しい立場に追い込まれている。1973年生まれの大前春子と同世代の非正規労働者を取り巻く問題もある。

『ハケンの品格』第1話カット(c)日本テレビ

 『ハケンの品格』新シリーズの第1話は、女性派遣社員(吉谷彩子)が社員からセクハラを受け、それを告発しようとした新人派遣社員(山本舞香)が軟禁されてしまう……というハードなものだ。「生きていく技術とスキルさえあれば、自分の生きたいように生きていける」という信念を持つ、ある意味、新自由主義の申し子のようなスーパー派遣社員の大前春子が、現実を取り巻く諸問題にどう立ち向かい、社会が抱える矛盾とどう折り合いをつけていくのだろうか。

 今、続編が観てみたい2000年代のドラマを挙げるならば、木村拓哉主演の『HERO』(2001年/フジテレビ系)を挙げる。すでに14年に続編が制作されているが、検察に対する不信感が蔓延する昨今、久利生公平が再び巨悪に挑む姿を見てみたい(2007年に公開された劇場版ではタモリ演じる悪徳国会議員と対決している)。

 天海祐希主演『女王の教室』(2006年/日本テレビ系)も続編を観てみたいドラマだ。「悪魔のような鬼教師」・阿久津真矢が現代の子どもたちとどう取り組むのだろうか。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)は石田衣良の原作が今でも続いているので、宮藤官九郎脚本で再びキャストが結集した続編を観てみたいところ。脚本家・古沢良太の『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008年/テレビ朝日系)も続編を観てみたいドラマの一つだ。

 時代の変遷によって社会が大きく変わっていく中、かつて活躍していたヒーロー・ヒロインはどう立ち向かうのか――。今後も2000年代の人気ドラマの続編に注目していきたい。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『ハケンの品格』
日本テレビ系にて、4月15日(水)スタート 毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:篠原涼子、小泉孝太郎、勝地涼、杉野遥亮、吉谷彩子、山本舞香、中村海人(Travis Japan)、上地雄輔、塚地武雅(ドランクドラゴン)、大泉洋(特別出演)、伊東四朗
脚本:中園ミホほか
演出:佐藤東弥、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、山口雅俊、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ

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