いわゆる残酷描写などを忌避する方もいるかとは思うが、鑑賞後気分が悪くなる……という観客はおそらくそう多くないのではと推測する。個人的にはドイツ映画らしい“容赦なさ”を感じながらも、ジム・ジャームッシュ作品に共通するようなオフビートなコメディとも言えるのではと思った。実際、ホンカは何もかもがうまくいかない。その様子はチャップリンやミスター・ビーンといった往年のコメディアンと被る瞬間もある。北野武が『バトル・ロワイアル』でどんなに怖くても、どこか笑えてしまうように。

　バレンタイン・デー公開の本作、刺激的なテーマだが、カップルで怖いもの見たさで観に行くと意外と笑い合って仲良くなったりするのではないだろうか。一人で観にいく人も、ホンカのようにはならないよう、自分の生活を省みてみるのもいいかもしれない。落とし穴はいつどこにあるのか分からないのだ。

■公開情報
『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督・脚本：ファティ・アキン
出演：ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、ハーク・ボーム
配給：ビターズ・エンド
2019年／110分／ドイツ／原題：Der Goldene Handschuh／英題：The Golden Glove
(c)2019 bombero international GmbH&Co. KG／Pathe Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH