富田靖子から松下洸平への無言のメッセージ 『スカーレット』距離をおいた夫婦の行方

 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第101話で、ポパイ(信作/林遣都)とオリーブ(百合子/福田麻由子)から「信楽以外の空気を吸って、これからのこと考えてこい」と送り出された喜美子(戸田恵梨香)。大阪で動物園を楽しんだ喜美子と武志(中須翔真)は、ちや子(水野美紀)の家を訪れ、住民運動に取り組む女性たちと出会う。

 「働く母の会」の彼女たちは、仕事のかたわら学童保育所を新設するための請願書を提出するなど活発に活動。取材を通じて母の会に出会ったちや子も加わるようになった。子どもたちの居場所をつくるために政治や行政に働きかけていくという考え方は、それまでの喜美子にはなかったもので、母たちの姿に新鮮な興味を抱くが、「川原八郎の妻」と紹介されて顔を曇らせる。

 武志を寝かしつけてから、ちや子に「父がお酒を飲みたくなる気持ち」がわかったと話す喜美子。「一生懸命生きてるといろいろありますね」「うん、いろいろあるなあ」。同じ屋根の下で3年間を過ごした2人に多くの言葉は不要。百合子によるとちや子は「お姉ちゃんのお姉ちゃん」。琵琶湖大橋の取材でちや子が信楽に来たとき喜美子が泣いてしまったことを百合子は覚えていて、「会うて来たら」と肩を押してくれたのだった。

 喜美子が生まれた場所であり、3年を過ごした大阪への里帰り。すでに荒木荘は取り壊されていたが、ちや子は住人の近況を把握しているようだ。女中をしていた頃の習慣で、取材で出かけるちや子に向かってとっさに「行ってらっしゃいませ」と反応してしまう喜美子が微笑ましい。ちや子は、10時になったらラジオを聴くようにと念を押して出かけていった。

 そのころ八郎(松下洸平)は川原家に。マツ(富田靖子)には「喜美子とも、そのうちゆっくり話しよう思います」とだけ告げる。八郎に茶碗を渡そうとして思い直す一連のやり取りから、八郎に帰る場所を用意しておくというマツの無言のメッセージを感じた。

 大阪では喜美子が、ちや子から指示のあった通り、22時に喜美子がラジオを付けると、聞こえてきた言葉に思わず耳を疑う。「こんばんは、信楽太郎です」。おそるおそる耳をそばだてた声の主は雄太郎(木本武宏)だった。そこで流れたのが「俳優から歌手に転身するもさっぱり売れず、最後のやけっぱちで出した」曲と紹介された「さいなら」。流れてきたのはオールディーズ調のスローバラードで、それを聞く喜美子のなんともいえない表情が強く印象に残った。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、松下洸平、福田麻由子、木本武宏、水野美紀 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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