【ネタバレあり】『劇場版ハイスクール・フリート』大和型4隻集合はどう実現した? 監督が語る、戦闘描写の裏側
「実は嘘のシーンだらけ」の戦闘シーン
ーーTVアニメ、OVAに続く今回の劇場版ですが、OVAでは日常パートがメインで戦闘が描かれることはありませんでした。本作では、戦闘シーンに期待が集まっていたと思うのですが、そのあたりはどのように進められたのでしょう?
中川:まず前半は艦を出さずに、後半30分で戦闘を存分にやろうという枠組みがあったので後半はとにかく思いっきりやってしまおうと考えていました。鈴木さんがミリタリー描写の専門家なので、流れはお任せして、あとはどう見せるかを意識しましたね。
ーーどう見せるかで悩んだポイントはありましたか?
中川:劇場の大スクリーンで上映されるので、やはりスケール感は重視しました。特撮のような作りになればいいなと思っていて、あえてコマを落としました。あと、TVアニメだと作画でやっていた水の表現に、デジタルの表現を加えて水しぶきを細かくできるようにしました。
ーーコマを落とすとどういう効果が得られるんでしょう。
中川:フルコマという1秒間に24コマの動画をつけると、動きは滑らかになるのですが、どうしても3Dっぽく見えてしまうんです。フルコマのカットもありますが、それだと滑らかすぎるところは、あえて1秒間に12コマの2コマ打ちにしています。少しカクついて逆に味になるんです。あと原画は鉛筆で描くので、細かい部分の表現というのは限界があります。大和型の戦艦は全長263メートルもありますので、鉛筆の点1点がものすごく大きくなってしまうんです。なので、そういった細かい部分に関してはデジタルで描いています。
ーー3Dと2Dのバランスは非常に試行錯誤されたのではと思います。
中川:はい。先ほど言ったスケール感と手描きっぽさというのは、実は全く相反する要素なんです。スケール感を出そうと情報量を上げると、より3Dっぽくなってしまう。アニメっぽく見せるのは、情報量を下げていく行為で、その2つのバランスを取るのは難しかったです。
ーーその中で実現が困難だったシーンはありますか?
中川:要塞に入ってからは全部大変でした。それ以前は割とリアル路線の画作りを心がけて、入った後はフィクションでいこうと考えました。ですので実は嘘のシーンだらけなんです。例えば晴風の船速は35ノットなので、時速にすると60キロ程度なのですが。そのままだとあまりにもスピード感がでなかったので、思い切って120キロぐらいにしました。最後要塞から脱出しているところは120キロ以上飛ばしていたりします。
ーー他にも「あえて嘘をつく」表現があったのでしょうか。
中川:劇場版はやはり大画面なので、画面の情報量を気にしました。もちろん原案の鈴木さんの許可を取っていますが、実際いろいろな嘘をついています。例えば、艦隊編成でいうと、本来艦同士の間隔は、縦800メートル、横400メートル空けなければいけません。それをリアルに描写すると画面がスカスカになるので、大和型4隻が縦列で、その横に晴風が並ぶシーンは、縦400メートル、横200メートルの幅で、実際の半分くらいのサイズ感で描きました。そういった部分は画面の美しさを優先しています。