八郎は自身の父権的な部分とどう向き合うのか? 『スカーレット』に登場する3人の男性

 現在、放送15週目の『スカーレット』の中では、喜美子と八郎はすれ違いが続いている。八郎は、出会ったころには「欲しい言われて、その人のために作って、ほんで、僕の作った器でおいしそうに食べてもらえたら」と言っていた人であるのに、現在は喜美子の才能を意識するあまり、本来の陶芸に対する気持ちを忘れている状態のように見える。

 もうひとつ八郎のセリフで気になるのは、結婚前から「自分の仕事は自分で」(この言葉は喜美子が言った言葉を自分でも取り入れたものであるが)と言ってみたり、「僕と喜美子は違う人間や」というものである。自分と他者は違う存在であると区別をつけることは、冷たくも思えるが、考え方として悪いことではない。特に、同じ陶芸の仕事をするふたりとしては、競いあうのではなく、それぞれが独立した陶芸家と認め合うほうが、齟齬はなくなるのではないか。そこに関しても今後、どう着地点があるのだろうか。

 多くの男性の物語(これは主役に限らずである)には、己の中に悪しき存在としてのしかかる「父」と、別の道を示してくれる「おじさん」というものが登場することが多いのではないかと思う。これは厳密に血縁でそうなっているのかではなく象徴的な意味合いである。

 八郎には、喜美子の父親のような部分も見え隠れしているが、深野先生のような自由な人に憧れているという点もある。八郎は、自分の中にある父権的な部分を乗り越え、深野先生の持つオルタナティブなものを取り込むことができるのか、これからも気になるところである。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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