2019年の年間ベスト企画

年末企画:児玉美月の「2019年 年間ベスト映画TOP10」 “沈黙”が共通項に

 さて、こうして概観すると、「沈黙」が共通項として浮かび上がってくる。無声映画から歴史を開始した映画にとって、「沈黙」は視覚表象としてのメディアである映画が讃える原始的な美質のみに留まらない。他でもない観客の私たちに、すでにある種の「沈黙」が仕込まれている。「沈黙する人は、他人にとっては不透明な人になる」(『ラディカルな意志のスタイルズ』2018年、河出書房新社)とスーザン・ソンタグが言うように、イングマール・ベルイマン監督『仮面/ペルソナ』(1966年)では、失語症を患う(装う)俳優は透明化し、女と男が会話するすぐかたわらで彼らを見つめる。あるいは「この期に及んでも観察する気か」と詰問される。こう言ってよければ、『シネマトグラフ』と名付けられたかもしれない名画におけるこの「沈黙」の観察者なる俳優の態度は、まるで映画観客のそれのようでもある。私たちは暗い箱でスクリーンと対峙するとき、まさに積極的に言葉の敗北者と化すのだから。本年度の作品群は、どれも「沈黙」の愉悦に加担し得る映画ばかりである。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

奇跡のキャスティングと映像美が紡ぐ 唯一無二の身体の物語『Girl/ガール』の繊細な表現
『火口のふたり』は価値観や恋愛観に強く揺さぶりをかけてくる 大人へと向けられた究極の愛の物語
是枝裕和監督の切実なる願いが結晶 『真実』は映画と人間の幸福な関係を描く

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『宮本から君へ』
全国公開中
原作:新井英樹 『宮本から君へ』百万年書房/太田出版刊
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、港岳彦
出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利、古舘寛治、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチ
主題歌:宮本浩次「Do you remember?」(ユニバーサルシグマ)/レコーディングメンバー Vocal:宮本浩次、Guitar:横山健、Bass:Jun
Gray、Drums:Jah-Rah
配給:スターサンズ、KADOKAWA
(c)2019「宮本から君へ」製作委員会
公式サイト:https://miyamotomovie.jp/

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