『いだてん』“俺たちのオリンピック”はどこにたどり着く? 美談だけにはしない“危うさ”も描く面白さ

 一方、幽霊になっても「政治とスポーツは別物と口を酸っぱくして言っただろうが」と説教する嘉納も、悲願の1940年東京オリンピック招致のためにイタリアの首相・ムッソリーニへの直談判を提案することで、オリンピックに関係ない権威に近づいたと批判された。死の前、オリンピックの開催に固執し理想を語る嘉納の姿を見た副島(塚本晋也)の「(プロパガンダを見事に成功させた)ベルリンオリンピックの模倣になりかねない」という警鐘は、第44回の田畑が自分の失敗に気づく場面以上に、愛すべき嘉納治五郎の思わぬ影の部分を見せられたようだった。

 とはいえ、ストップウォッチが刻み続ける時間は止まらない。もう止めることができない。でも、「俺のオリンピック」は「俺たちのオリンピック」になった。嘉納と田畑が敷いてきたレールの上を、岩田はじめ多くの彼らを慕う仲間たちが走ろうとしている。そして、志ん生(ビートたけし)、金栗、田畑たちが生きるそれぞれの世界を見事に繋げた、このドラマでは珍しいフィクションの人物・五りん(神木隆之介)は、一旦全ての役目を終えて「足袋に」出た。現在進行形の物語を突っ走る彼らはどこにだどりつくのか。共に走る準備は万端である。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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