『いだてん』阿部サダヲ演じる田畑はどう立ち上がるのか 最終回直前で主人公がどん底に

 11月24日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第44回「ぼくたちの失敗」。選手のために、アジア民族の祭典を心待ちにしているインドネシア人のために、アジア大会への出場を決めた田畑(阿部サダヲ)。しかし、帰国後、彼を待っていたのは猛烈なバッシングだった。政治がスポーツに介入したことで窮地に追い込まれ、「どこで間違えた」と自問自答する田畑はやがて、自らが撒いた種を思い出す。

 1962年に開催されたアジア大会。開催国インドネシアが台湾とイスラエルの参加を拒んだことが国際問題に発展する。選手とインドネシア国民の思いを汲んで、田畑は日本選手団の参加を決意する。日本選手団は次々に好成績を残すが、日本のマスコミはアジア大会参加への非難ばかりを取り上げる。

 日本にいる岩田(松坂桃李)や松澤(皆川猿時)は、この事態に戸惑いを隠しきれない。河野(桐谷健太)が田畑に「正式大会ではなく親善大会に、大会自体の趣旨を切り替えるんだ」と助言するが、その方法もうまくいかない。追い詰められる田畑だが、「参加に後悔はない」と断言した東(松重豊)や「出なきゃいい大会なんかこの世にありません、あるわけないじゃないですか!」と怒りを露わにした岩田の存在が支えになったことだろう。

 そんな中、批判が集中する田畑の姿を見て、川島(浅野忠信)が動く。マスコミの前で「責任体制をしっかりとしなければいけない」と話す川島。田畑は参考人として国会に呼び出されることに。序盤こそ、国会答弁に「茶番かね」と軽口を叩いていた田畑だが、政治家たちの矛先が田畑に集中すると、見る見るうちに表情が強張っていく。田畑の熱情的で雄弁な語り口が失われていく一方で、川島は余裕ある笑みを浮かべていた。

 “陽気な寝業師”によって完全に行手を阻まれた田畑は、必死になって考える。「どこで間違えた」と。そして気づく。

「今後は東京オリンピックを政府の国家事業と捉え、金を出す。その代わり、時には口も出し、しっかりと管理する所存です」

 川島の口から飛び出た言葉。どこかで聞き覚えのある言葉である。なぜならこの言葉は、田畑が国からオリンピック予算を得るために、第25回で高橋是清(萩原健一)に訴えた言葉だからだ。

「先生方も、スポーツを政治に利用すればいいんですよ」
「金も出して、口も出したらいかがですか?」

 田畑は「あの時だっ」と目を見開いた。怖いもの知らずだった若かりし頃の田畑が撒いた種。あの頃は、高橋是清の快活な笑いがオリンピックの明るい未来を見せていた。けれど今、彼の笑顔は全く違うものに見える。政治がスポーツに介入したことを嘲笑っているかのようでゾッとする。

 「政治」の力にねじ伏せられた田畑。津島(井上順)と共に解任させられることになった田畑は最後まで抵抗するが、どうすることもできなかった。淡々と「田畑と津島の責任問題について話し合う場だから」と田畑を退席させた東だが、彼は田畑と目を合わせることができなかった。必死に声をあげる田畑に、松澤は「まーちゃん、ごめん」と頭を下げることしかできなかった。岩田が「田畑さんいないところで何話すんですか。今まで田畑さんいなかったことなんかなかったでしょう!」と声を荒げても、岩田に田畑を事務総長に戻す権限はない。津島は田畑に「負けたんだよ、川島に」と言った。田畑も津島も、東も岩田も松澤も、全員が川島に、「政治」の力に負けたのだ。

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