『サザエさん』20年後のキャスティングに反響 『磯野家の人々』スタッフが語る、制作の裏側

『磯野家の人々』スタッフが語る、制作の裏側

鈴木「なんてことない日常を、ファンタジーに」

ーー監督が思う『サザエさん』の魅力はどこでしょうか。

鈴木雅之(以下、鈴木):“家族”というのが、原点でしょうね。会社や学校で嫌なことがあったり挫折したりするけれど、それぞれ“家族”に戻ってくることで、次の朝、また元気に外に行ける。“家族”が、人が生きていく礎や生きる源になっているところが『サザエさん』の魅力であり、作品として描きやすい部分なのかなと感じました。

ーー演出する上で、大事にしたことは?

鈴木:『サザエさん』って、大きなことは何も起こらないんですよ。「戸棚に入っていたはずのケーキがなくなった」と大騒ぎになって、家族会議が開かれるみたいな(笑)。たとえ2時間ドラマでも、殺人事件が起こるとか、そういう特殊なことはありえないんです。でも人はみんな、生きている中でちょっとしたことに悩んでいる。周りから見たら普通のことだけど、本人からするとすごくショックだったりすることが毎日続いていくんですよね。そんな風に、大したことが起こらなくても、本人にとっては起伏のある人生を捉えられるような物語を作りたいと思っていました。

ーーとくにこだわった部分は?

鈴木:なんてことない日常を、ファンタジーに描きたいという思いがありました。あとは、『サザエさん』ってすごく明るくて、悩んでいても沈まないじゃないですか。でも、この物語は20年経っているので、アニメにはない“ちょっとした切なさ”を取り入れていこうと。たとえば波平さんが仕事を引退し、子供たちも離れて寂しい思いをしているとか、みんなそれぞれに切なさを持って生きている。そして“家族”に戻ってきた時に、その切なさをもう1回生きる元気に変えていくという流れができたらいいなと思いました。

ーー演出する上で、難しいと感じたところはありますか?

鈴木:アニメでは家族の誰かと一緒にいるお話が多いけど、今回はみんなが飛び出していく。それぞれバラバラに外にいるので、同じ時間帯にサザエさん、カツオ、ワカメたちがそれぞれの状況にいるわけですよね。5つも6つもあるパーツを別々に撮って、きちんと1つに形成していかなくてはいけない。そこは緻密さが必要なところだったので、ちょっと面倒くさかったかな(笑)。なかなかテクニカルな作業だったと思いますね。

ーーキャストのみなさんに対しては、どのような演出を?

鈴木:何かお願いしたっけなぁ(笑)。でも、『サザエさん』は国民的アニメなので、どういうキャラクターなのかはもともとキャストのみんなが受け取っているんですよね。20年後ではあるけれど、なんとなく想像できる。それぞれがキャラクターのイメージを持って始めていってくれたので、すごくやりやすかったです。

ーー現場の雰囲気も気になります。

鈴木:最近は、みんながちゃぶ台を挟んで延々話をするようなホームドラマがあまりないけど、今回は家族の団欒のシーンがありました。その中で、磯野家の人たちも家族的な結びつきができてくるというか、徐々に空気感が良くなっていく感じだったと思います。

ーーアドリブもあるんですか?

鈴木:アドリブというよりは、今あるセリフの中で、どう『サザエさん』を作っていこうかという感じですね。20年前のキャラクターがきちんと見えているので、それをどう立たせていこうかな、というのが演技プランの中にあって。役者さんにしても、いつもとはちょっと違う目標みたいなものが、おぼろげに見えていくっていう。それは新しいことだし、楽しかったんじゃないかなと思います。その中で、キャラクターに近づくようにシフトしてくる人もいれば、あまりそこに影響されない人もいる。役者さんの取り組み方も、なかなかおもしろかったですよ。

ーー国民的アニメということで、やはり反響は怖いですか?

鈴木:ものすごく怖いです(笑)。でも、とにかくみなさんがおもしろがってくれたらいいなと。『サザエさん』というよりは一つの作品として、おもしろい物語だったと思ってもらえたらありがたいですね。

(取材・文=nakamura omame)

■放送情報
『磯野家の人々~20年後のサザエさん~』
フジテレビ系にて11月24日(日)20:00〜21:54
出演:天海祐希、西島秀俊、濱田岳、松岡茉優、成田凌、桜田ひより、市毛良枝、伊武雅刀、他
原作:長谷川町子『サザエさん』
脚本:阿久津朋子
企画・プロデュース:渡辺恒也、プロデュース:小林宙
演出:鈴木雅之
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sazaesan_20/

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