『スカーレット』は“関西らしさ"を押し出した朝ドラに 喜美子の生活の中に溢れる笑い声
厳しい現実に直面しながらも主人公が決して手離さないのが笑顔なのだが、喜美子が出会う人々も、ひとかたならぬ笑いのオーラを放っている。家族思いだが生業が立たず、酒を飲むと気の良いおっさんに変わる北村一輝のダメ親父ぶりには、あきれつつも笑ってしまうし、絵付けの師匠・深野(イッセー尾形)がガラス戸あるいは火鉢を挟んで喜美子と繰り広げる無言の対峙は、一人芝居の面目躍如といった風情がある(イッセー尾形に顔芸で対抗する戸田恵梨香もすごい)。幼なじみの照子(大島優子)や信作(林遣都)とは顔を合わせれば漫談になるなど、ひとクセあるキャラクターたちが、笑いを媒介にして、喜美子にとっての得難い存在に変わっていくのだ。
41話で喜美子は火鉢に絵付けをする深野に「なぜ笑っているのか」とたずねる。従軍画家としての苦渋に満ちた体験を経て、絵付けの仕事に出会った深野は、平和であることの喜びを心の底から感じていた。「悲劇と喜劇は紙一重」と言うが、『スカーレット』が醸し出す絶妙な可笑しみは人生を肯定する姿勢に裏付けられている。みずみずしい感性を持ったヒロイン・喜美子の紡ぐ笑いが、悲喜こもごものストーリーに鮮やかな色彩を添えている。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/