渡辺大知の出演作が止まらない! 経験を力に変える瞬発力が役者としての信頼を生む?

 男という生き物が本質的に持つ情けなさやピュアな心情をオブラートにくるまずにさらけ出す渡辺の個性は、天然素材と意識的な役作りのたまものである。公開中の映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』でも主人公・砂田(夏帆)の夫として短い出演時間で物語のアンカー役をまっとうしているが、大九明子や箱田優子ら女性監督の演出意図を的確に汲み、主演女優の魅力を引き出す演技には映画『モーターズ』(2015年)で監督・脚本を手がけた経験も反映されているはずだ。

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(c)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

 「受け」の演技が際立つ渡辺だが、2019年7月クールに放送された『べしゃり暮らし』ではそれにとどまらない新境地を示している。漫才コンビ「きそばAT(オートマチック)」のツッコミ担当・辻本として上妻(間宮祥太朗)が繰り出すボケに絶妙な間合いで切り返すシーンは、渡辺の演技に対する瞬発力を強く感じさせるものだった。同時期のドラマ『Iターン』でもムロツヨシのアドリブを引き出していたが、演技派の役者と一瞬の化学反応を起こす才能は、ストレートなロックンロールを身上とする黒猫チェルシーの日々を通して培われたものかもしれない。

 そんな渡辺だが、ふたたび主役として真価を発揮する時が近づいている。2020年2月からはじまる村上春樹の名作『ねじまき鳥クロニクル』待望の舞台化で主人公・岡田トオル役に抜擢。さらに、主演映画『僕の好きな女の子』(又吉直樹原作)の公開も予定されている。デビューから10年、経験を力に変えることで刮目すべき存在となった渡辺大知。俳優としての新章でどんな姿を見せてくれるか楽しみだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■公開情報
『わたしは光をにぎっている』
新宿武蔵野館ほか全国ロードショー中
監督:中川龍太郎
脚本:末木はるみ、中川龍太郎、佐近圭太郎
脚本協力:石井将、角屋拓海
出演:松本穂香、渡辺大知、徳永えり、吉村界人、光石研、樫山文枝
配給:ファントム・フィルム
(c)2019 WIT STUDIO/Tokyo New Cinema
公式サイト:phantom-film.com/watashi_hikari/

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