小林直己が語る、ハリウッドでの映画製作で受けた刺激 「自分の考えや意見を伝える技術をもっと磨きたい」
「国際社会において日本人としてどうあるべきか」
ーー異邦人から見た日本が描かれているのも見どころだと思います。主人公のルーシーは日本的な美意識に敏感で、その文化に対するリスペクトと同時に、奇妙なものとして捉えている部分もあると感じました。この映画を通して、小林さんから見た日本像に変化はありましたか。
小林:変わったと思います。特に、様々な国籍を持った人たちとの共同作業は刺激的でした。原作者のスザンナ・ジョーンズさんと監督/脚本のウォッシュ・ウェストモアランドさん、製作総指揮のリドリー・スコットさんはイギリス出身 で、メインカメラマンのチョン・ジョンフンさんは韓国出身 、共演したアリシア・ヴィキャンデルさんはスウェーデン出身 で、ライリー・キーオさんはアメリカ出身 。アートディレクターの種田陽平さんは日本出身 です。様々なバックグラウンドを持ち、母国語も違う人々がアイデアを持ち寄って一つの総合芸術を作る作業によって、これまでの常識が覆されることもたくさんありましたし、ディスカッションすることの重要性や、国際社会において日本人としてどうあるべきかも考えるようになりました。本作における日本の描き方は、たしかに日本で育った人から観ると新鮮に感じるでしょう。しかし、もしかしたら彼らの目から見た日本の方が、バイアスがかかっていない本当の日本の姿なのかもしれない。多面的に捉えることによって、日本はユニークで不思議な魅力と、強靭な精神性を備えた国だということを再発見するきっかけになりました。
ーー国境を超えたチームによる映画作りはとても現代的で、これからの映画の可能性を広げる試みでもあったと思います。
小林:このような試みは、NETFLIXという世界中に配信できるプラットフォームができたからこそのものの一つだと感じています。今やNETFLIXには一億人以上の会員がいて、その一億人以上の会員に世界同時配信でアプローチできるというのは恐ろしいことでもありますが、とても刺激的でロマンがあります。僕自身、これまで世界中の様々な映画に触れて大きな影響を受けてきましたが、『アースクエイクバード』も世界の誰かに影響を与える可能性はあって、もしかしたら人生を変えてしまうかもしれない。国際社会の一員として、自分のアートを表現することができたという実感は、かけがえのないものになると思います。新しいシステムやテクノロジーによってアートの可能性が広がったのは、とても良いことだと感じています。
ーー国際的な作品に参加したことで、ほかに意識が変わったことはありますか。
小林:コンプライアンスに対する意識が変わりました。今回の作品は世界同時配信するということで、撮影前にコンプライアンス対策ミーティングが行われました。ポリティカル・コレクトネスの観点から見て撮影の舞台裏など、制作の日々の中どのような行為がハラスメントに当たるのかなど、専門家から非常に細かなレクチャーを受けたんです。常識的に考えて当然だと思うこともありましたが、そういうところまで気にする必要があるのかと驚いたところもあります。様々な人種の人々が集まって何かを作るには、そういう部分の意識を整える必要があるし、多くの人々を感動させるには、そうした配慮を踏まえた上でさらに優れた表現をしていかなければいけないのだと感じました。また、その他にも、 自分の考えや意見をしっかりと伝える技術は、もっと磨いていこうと思っています 。『アースクエイクバード』が公開された後、世界中からどんな反響が来るのかはまだわからない部分もありますが、この作品が世界の誰かにとって、何かを考えるきっかけになると嬉しいです。
(取材・文=松田広宣/撮影=石川真魚)
■配信情報
Netflix映画『アースクエイクバード』
独占配信中
監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
出演:アリシア・ヴィキャンデル、小林直己、ライリー・キーオ
作品ページ:https://www.netflix.com/earthquakebird